「幻の光」に国道駅ガードが出てきた

夕方、CSで是枝裕和監督のデビュー作「幻の光」を見た。主演は江角マキ子。是枝監督作品は「誰も知らない」でノックアウト、という感じだったが、この「幻の光」もいい。原作は宮本輝。尼崎の若夫婦。生まれて三カ月の子供があり、夫は工場づとめ、安アパートに住み、暮らしはつつましいが幸福そう。ところが、突然、夫(浅野忠信)が鉄道自殺する。ここまで30分。あとは輪島あたりの能登の風景のなかで、後妻として入った江角の生活が描かれる。セリフを極力省いて、映像で見せるやり方は、このデビュー作から貫かれていた。是枝監督、そうとうすごいのではないか。あわてて、宮本輝の原作を読んだくらい。
最初、舞台は尼崎だが、ロケ地は鶴見線らしく、「国道駅」のガードが出てくる。江角が子供を連れて能登へ向う。最初の駅はどこだろう。白いモルタルのいい感じ。吹きさらしの小さな素っ気無いホームの向こうは河で、小さな船が音をたてて通っていく。原作をそのまま生かしている部分、はぶいている部分を新潮文庫で比べると、興味深い。新潮文庫カバーが映画のスチールで、撮影は藤井保。朝日新聞社のpR誌「一冊の本」で本の写真を撮ってる人だと思う。ぼくも一度、いっしょに仕事をしたことがある。これがまたいい。原作の「幻の光」も、明日、いちばんで書店へ駆け込んで読むべき、優れた小説だ。
映画にはなかったこんなセリフ。能登へ旅立つ大阪駅までのあいだ、もうこのまま戻ろうと思ってるとき、漢さんという朝鮮人のおばさんに声をかけられる。
「力いっぱい股で挟んだったら、男なんていちころや。相手の子供を味方にするのんが、こつやでェ。ほんまやでェ、ほんまにそないするんやでェ」
 これから再婚しようという、不安な女性に、これ以上適確なアドバイスがほかにあるだろうか。
今日は「ブ」で13冊買ったが、省略。そのほか、楳図かずおわたしは真悟』の文庫版が7冊、いっきょ105円のコーナーに出ていて、まとめて買う。読む。これがまたすごいのよ。楳図かずお、天才ですよ。