10年以上ぶり(ひょっとして20年近い?)に、北村薫『秋の花』を読み、大いに感銘を受ける。だいたいのストーリーと、あざやかな(意外な)謎の真実は覚えていたが、ほか、ほとんど忘れている。円紫の登場はこんなに後の方だったか。この円紫と私シリーズで、私が住む町は、どこどこと具体的に記されていないが、著者の出身が埼玉県杉戸町であり、春日部高校卒で、同校の国語教師を務めていたことから、だいたい類推できる。この作品でもヨーカドーが登場するが、東武動物公園駅前のヨーカドーであろう。ただし、現在「ベルク」と名を改めている。本書のラスト、円紫と私がタクシーに乗って(追記/タクシーではなく、借りた車でした)、自殺しかねない少女を追って東へ走るシーン。4号バイパスを越え、江戸川まで行くことでも、杉戸町かいわいと分る。16号線を西進したのではないか。江戸川を越えると、千葉県である。解説とは別に、久世光彦が扉に短いオマージュの文章を捧げているが、これもいい文章だ。「私」は、度を越した読書家の女子大生だが、伊藤整「鳴海仙吉」まで読んでいるのには驚いた。文庫版にはカラー口絵で「秋海棠」の花の写真があるが、この花が重要な意味を持っている。何度か、この写真を見返した。そうか、そんな意味があるのか。それも忘れていた。設定は10月終わり頃の話のようだが、いま(11月終わり)読んでも、じゅうぶん、雰囲気に浸れるはずだ。忘れようとて忘れられない一作である。
BSでずっと放送される山田洋次監督作、「幸せの黄色いハンカチ」「遙かなる山の呼び声」を、いったい何度見れば気が済むんだというくらい、また見た。出て来る俳優がみんないい。「遙かなる」で、倍賞の家を手伝いに来る少女は大竹恵は、大竹しのぶの妹だ。今回、初めてそう気づく。