また深夜に目覚めてしまって、眠りを待つのをあきらめ、起きてくる。このところ、ベッドを舟にして、ゆらゆらとまどろみながら本を読み続けている。おかげで、めちゃくちゃ読める。昨日は、アン・タイラー『パッチワーク・プラネット』、佐伯一麦『渡良瀬』、そして種村季弘『雨の日はソファで散歩』を読了。いずれも、わずか2日ぐらいで読んでいる。いずれもおもしろい。『パッチワーク』は、離婚して妻娘と離ればなれの30の男性が主人公。しかし、受ける印象は少年に近い。名を言えば、「あの!」と言われる名家に生まれながら、期待にこたえられず迷走、過ちもおかし、高齢者家庭に足を運び雑用をこなす仕事をしている。母親につねに抑圧され、実際には、気持ちの優しい青年であるのに、不器用に生きている。そんな彼の目の前に、ある日、少し歳上の魅力的な独身女性が現れる。しかし、例によって、ことはスムーズに運ばず、思いがけない結末が待っている。筋運びのうまさと、人間心理の微妙な書き分け、ディテールなど、ほとんど名人芸と呼べるもの。映画になったのは「アクシデンタル・ツーリスト」ぐらいというのもうなずける。映像では手が届かぬ部分が多く、それがアン・タイラーの魅力であるのだ。しかし、波瀾万丈、ジェットコースター的作品を読み慣れた人には、少々物足りないというか、かったるいかもしれない。日本で爆発的人気、といかなかったのも、そういうわけか。文春文庫版はいずれも現在品切である。『渡良瀬』は私小説ではあるが、職業(電気工)的日常と、移り住んだ地方都市「古河」(こが)のことが丹念に描かれているため、まったく飽きない。古本屋探訪で「古河」へは行っている。そうか、そういう町か。『雨の日』に、「彷書月刊」でのインタビューが最後に掲載され、これが滅法おもしろい。『ユリシーズ』の共同翻訳者である永川玲二の話が出てくるが、一冊分読みたいぐらい、興味深い。陸軍幼年学校を脱走(発見されれば銃殺)、日本国中を逃げ回り、丸谷才一『笹まくら』の徴兵忌避者のモデルになったという。戦後の生きかたも、まったく日本の海外文学紹介者とは違う。ビリビリと刺激的な読書となった。こうしてはいられないぞ、という気持ちになる。