録画した「フライド・グリーン・トマト」を前知識なしで、酒を飲みながら、見ていて、椅子に座ってはいたが、表現としては「寝ていた体を起こして向き合って」という気分で最後まで見た。ひとことで言えば、女の友情の映画と言っていいと思うが、いろんな味が幾層にも積み重ねって見応えがある。原作があるようだが、脚本がうまいなあ、と感心した。現代(といっても1991年公開)と、回想で再現される1920年代からの数十年、黒人差別が色濃くはびこる南部アラバマでの話が並行して語られる。最大の理解者で最愛の兄を失って、家にも寄り付かなくなる風変わりな少女イジーメアリー・スチュアート・マスターソン。あんまり見ない女優で、でも、どこかで見た記憶があったが、ジェームズ・リー・バーク原作「天国の囚人」の映画化で、娼婦役をした女優だった。差別主義者の夫による虐待、KKKによる黒人への暴行、鉄道事故で片腕を失う少年と、真相がわからぬ殺人と、暴力に満ちていて、それでいてビタースウィートな後味の映画であった。
市川準「東京夜曲」(1997)を久しぶりに見る。家族を捨て町を去った男(長塚京三)が、顔に傷を作り、松葉杖で不穏な空気を身にまとい、のっそりと帰ってきた。時代遅れの商店街があって、寡婦桃井かおり(疲れた感じでキレイ)が切り盛りする囲碁喫茶があり、町の住民のたまり場である。長塚と桃井は、過去に訳ありの仲のようだ。ちょっと西部劇を思わせる出だしだ。長塚には倍賞美津子扮する妻、老いた両親、子どももあるが、家を空けたことについて、妻も家族もそしらぬ顔で迎える。父親が経営する、まったく売れない電器屋を、長塚が継いで、ファミコンソフト店に変えて成功するが、仕事のなくなった父親は、だんだん変調をきたし、壊れていく(「ヒッパレー、ヒッパレー、ふんどしのヒモを」と歌う)。この江戸川と、掘割のある水路を持つ商店街、映画では「上宿商店街」とあって、東京下町という設定らしいが、実際は浦安で撮影された。市川準トキワ荘の青春」にも出た鈴木卓爾が、ここでも使われている(同じく安部聡子も)。東京の夕暮れが、何度も何度も映る。東京はときどき美しい。20年以上たっているが、一度、浦安を歩きたい。撮影が行われた浦安フラワー商店街はどうなっているか。