BSで録画しておいた、成瀬「山の音」を見る。3度目ぐらいか。忘れている事多し。映画では、新婚数年の上原謙が、美しき若妻・原節子にどうしてあんなに冷酷で、ほかに女を作り、しかもその女に暴力をふるうような、無軌道で無頼なのか、よくわからぬが、原作によれば上原は復員兵で、戦地で地獄を見たという、その傷が癒えずにいる、ということか。上原が浮気する女も戦争未亡人で、思ったより、戦争の影が濃く落ちている。最後の山村聰と原が歩くイチョウ並木は、ネットの映画解説では「新宿御苑」となっているが、どうみても北青山絵画館前の「イチョウ並木」で、原が遠近感を出すためにどうこう(外来語で)と解説するセリフがあるから間違いないはず。しかし、あたり、建物はまるでない、広い原っぱのようである。薬師丸ひろ子が生れ育った都営アパートもない。鎌倉駅前が映るのが貴重。家へは、そこからバスに乗り、さらにまだ歩くようだ。
2刷『女子の古本屋』(ちくま文庫)は、その後、情報が大きく変わり、その変更のチェックに手間取る。とくに文庫版で増補した「その後の『女子の古本屋』情報が、8割方、閉店か移転か、形態が変わるかで、うーんとうなる。2刷で、こんなに手を入れていいもんだろうか。「いっそ、増補新編集版を」と、口には出さずに女房の小春。「ちくま」に連載したのは、もう10年以上前のことか。しかし、これはいい本ですよ。読んで、自分の本だが、感動してしまった。持てる力をすべてつぎ込んで格闘した跡がある。気力と技術と集中力で書いた本だ。私のライター人生の記念碑だと思っている。取材した対象の女性古書店主たちのおかげである。私の力を引っ張り出してくれた。そうは書けない本である。
北海道新聞小路幸也『駐在日誌』書評を書いて送付。来年2月に出ると決っている書き下ろし本について、担当の坂崎重盛先輩と電話でやりとり。「だいじょうぶ、面白いですよ」と言ってもらえる。小間切れに送ったので、まとめてゲラを読まないと、自分の本なのにイメージがつかめない。あわただしい年の瀬なり。サンデーより、年末年始3週分、選んだ本が送られてきた。20数冊ある。枕元の本棚に並べ、ふとんにもぐりながら、ゴロゴロし、あれこれ読むのが楽しみ。恐怖の「ふとん男」だ。