吉村萬壱を読んだことがなかったが、書評依頼(共同通信)があり、『回遊人』が届く。芥川賞作家でタイムスリップもの、というのは珍しいのではないか。
ドラマに刺激され、さっそくロバート・B・パーカー『暗夜を渉る』を引っ張り出して読み始める。前に読んだのは2014年2月13日。奥付に記してある。妻に去られ、酒に溺れてロス市警を失職したジェッシイ・ストーンが、アメリカ大陸の反対側、大西洋に臨む小さな町パラダイスの警察署長に採用され、向う。自分で車を運転して西から東へ行くのだ。その道中のドライブの様子が克明に記され、同時に、ジェッシイの過去と現状が明かされる。巧みな展開だ。車を運転するのに「クルーズコントロール」という用語が出てくる。速度を設定したら、アクセスを踏まなくても、自動で車が進むシステムのことらしい。ロスから約7000キロ、二週間はかかる旅である。一度、アメリカの地図を脇において、ジェッシイがたどったコースを確認したい。
同じロバート・B・パーカーのシリーズのスペンサーは饒舌だが、ジェッシイは無口。コトバ少ないのを指摘されると「口を閉じていてトラブルに巻き込まれた記憶はない」と言う。なるほどな。パラダイスを支配するワルどもが、悪事を隠蔽するため、御しやすい、とるに足らない人間と認定して、ジェッシイを警察署長に据えたのだが、これがとんでもない間違いだったことがわかってくる。シリーズは全9巻。そのうち、ぼくはどれだけ読んだか。