今朝の朝日朝刊、声の欄に、「お父さん 心苦しいけど「卒酒」を」の投稿あり。投稿者は「古書店員 青木裕子 東京都(56)」とある。この「古書」という文字に、鍛え上げた動体視力が反応する。おそらく、青木書店さんだと思うが、「横浜に住む父」とあり、これは、あの青木正美さんじゃない。そうか、嫁いで来られて、裕子さんの実家の父上の話だとわかる。父上を気づかう気持ちは充分伝わってきたが、ううむ、ここまで来たら、もう好きなように飲ませてあげて下さい、とも思った。すいません、事情を知らず、勝手なことを申しました。
「ひょっこ」挿入歌「好き好き好きっと〜」(歌唱は太田裕美)が頭から去らず、電車の中で、思わず口ずさんでしまうことも。危ないなあ。
昨日はまるで夏の日で、溜った新刊を取りに来てくれた音羽館の店員Sくんの車に乗って、途中、三鷹上々堂」で下ろしてもらう。車内、Sくんのこと、あれこれ聞く。何度か、信号前で急ブレーキ。そうだ、集中している運転中に、あまり話しかけてはいけないのだった。「上々堂」で精算と少し補充。補充が貧弱だと、あまり売れない。売れないと補充できないという悪循環。年末、岡崎棚の半額セールをやるかと歩きながら考える。
「水中書店」へも寄って、文庫2冊。もう3、4冊は持っているであろう井伏鱒二『文士の風貌』(福武文庫)をかまわず買う。やっぱり面白くて、読み捨てにすればいいとガシガシと線を引く。「牧野信一のこと」で、酒場にマッチ売りの少女がきて、客にしつこく「買ってよ」と言うのを、酔客が怒鳴り、五十銭だまを一つ与え、「さっさと帰れ」と言って平手打ちをくわせた話が出てくる。女の子は泣いて帰った。それを見ていた、編集者の一人が立って行って、その男の前に五十銭だまを一つ置き、平手打ちを食わせた、というのだ。酒場で人前でも原稿を書く池谷信三郎が、それを聞くなり、すぐに原稿に取り入れた。それを知った牧野信一は、酒を飲んでる池谷をスタンドで殴りつけた。「なんのざまだ。」と怒った。文士にあるまじき所業だということだろう。激しい時代である。もちろん、井伏鱒二はこれを、もっと名文で書いていますよ。