何もない静かな連休である。寺田博『文芸誌編集実記』を読むと、一九六〇年代、文芸誌編集者の寺田が、「文芸」掲載の作品を、各文芸時評子がいかに評価、あるいは批判するかを、非常に気にし、また頼りにしていることがわかる。当時の代表的文芸時評子は、江藤淳(朝日)、平野謙(毎日)、山本健吉(読売)であった。文芸時評の時代、があったのだ。
午後、このところBS2で継続して放映されている、小津安二郎のデジタルマスタリング作品、「秋刀魚の味」を観る。7度目ぐらいか。画面に出てくる酒を注意して観ていると、まずサッポロビールが、球場の広告塔ほかに目立つかたちで出てくる。恩師ひょうたんを招いてのクラス会で、料亭の酒席に置かれるのがサントリーオールド。「あの上等なウィスキー」という言葉が、あとで出てくる。岸田今日子がマダムのトリスバーではトリス。これを加東大介が美味そうに飲む。中村伸郎の家で飲まれるのは外国の洋酒。ラベルが半分隠れているが、ブラック&ホワイトであろうか。あとでジョニ赤も出てくる。加東大介の軽快、愛嬌に惚れ惚れする。石川台駅(画面に登場)近くの団地に住む、佐田啓二岡田茉莉子の、やや倦怠期のつつましやかな日常の描写も良い。共稼ぎで、早く帰った佐田が、エプロンをつけ「ハムがあったからハムオムレツを」作る。上野のとんかつ屋の名店「蓬莱屋」らしき店の二階で、佐田 啓二が同僚の吉田輝雄を誘って、とんかつでビール。ヒレカツならん。妹・岩下志摩が吉田を好きで、それとなく打診するため奢りで誘った佐田だったが、吉田には婚約者がいた。だから、話はもう終わったのだが、吉田が「ビール」「とんかつ」を「うまいですねえ」とお代わりする。この微妙なユーモア。蓬莱屋のとんかつは、一度取材で食べたことがある。そうか、貴田庄さんの取材だった。とんかつはさすがに美味かったが、ちょっと高いですね。八王子「ほし野」派のぼくとしては、なかなか気軽には行けない。いま、メニューを調べたら、ヒレカツ定食が2,900円。東京物語膳2,400円というのもある。