「朝日」土曜朝刊、出版広告に光文社新刊広告があり、拙著『読書の腕前』が、わざわざピックアップされ掲載されていた。「6刷」の文字が踊る。思わず切り抜いて、スケジュール帳に貼る。
「別冊太陽」新刊が『夏目漱石の世界』。いまさら何をやることがあるだろうと思いつつ、美しいカラー写真にあしらった引用文と、現代作家・評論家による作品解説をついつい楽しんでしまう。考えたら、主要な作品にいちおう目を通している作家というのも、そんなにはいないのだ。池内紀による「それから」論。「それから」が「のらくら者の物語」で、「それも一人ならず二人組、主従コンビののらくら者」だという。つまり高等遊民の代助とその書生・門野の生活のことを言っている。代助が「何もしないのは何かをすることに慣れていないから」であり、つまりそれがタイトルの「それから」に象徴されている。なるほど。新しい光があたる感じ。「こころ」もそうだが、「2」という員数に、あらたに「1」が加わることで、漱石世界に波乱が起きる。
市内三ヵ所の図書館を自転車で巡る。某誌から頼まれたエッセイで、あるテーマの本(それもタイトルにあらわれた)を探しにそうしたのだが、楽勝だと思われたが、意外に難しいことに気づいた。とりあえず、手持ちのものも含め10冊ほど揃える。今日、東京はほんの少し気温が下がったとのことだが、日影を走るとき、肌にあたる風が明らかに昨日までとは違う。ほんの少しだが「秋」を感じる。しかしセミ時雨は頭上にあり、どこか地方の田舎町を走る自分を思う。
田澤拓也『無用の達人 山崎方代』読了。このところ、山頭火、放哉、井月、この方代など、世を捨てた単独者の句にひかれる。方代は知人に嘘をつき、自分を伝説にしたがった。「おのずからもれ出る嘘のかなしみがすべてでもあるお許しあれよ」。