龜鳴屋さんから、いま話題の高祖保随筆集『庭柯のうぐひす』が届く。うれしい。何と典雅で、涼し気な装幀か。日本茶の深緑の函はかっちりと堅牢なる仕上がりで、本体とのバランスがとてもいい。こんなに出しやすい函は初めて。しばらく出したり入れたり、音楽のように楽しむ。「宝石のような」と評したくなる。
まだ、なかを読み始めたばかり。函と同じ緑の本文文字が目にやさしい。速読術の安易な理解を許さない端正な文章が続く。「庭柯」とは「ていか」と読み、庭木の枝を指すようだ。唐詩「飛脚に寄す」に「庭柯煙霧清」の詩句がある。
http://www.spacelan.ne.jp/~kamenaku/
いまでも夢だったのかと、疑う、ほんのいっとき、存在した古本屋のことを思う。今日、起きてから、ずっと思っている。あれは小平在住時代。よく青梅街道沿いの花小金井「ブックセンターいとう」へ通っていたが、ある日、西武新宿線の南側に平行して続く緑道をサンポしていたときのこと、途中、花屋でもあるかのような、きれいな建物の一階に古本屋ができていた。記憶はおぼろげながら、品揃えもよく、へえ、こんなところにとオドロキ、これから楽しみだと思っていたが、いつのまにかなくなった。「光書房」というような名前だった気がするが、勘違いかもしれない。なにしろ、行ったのはたった一回きり。そもそも存在させ、夢だったのかと思えるような店だった。いつも古本屋のことばかり考えていると、そういう夢を見がちであり、記憶を疑いたくなるが、まさしくあれは現実であった。