okatake2014-01-27

黒岩比佐子『忘れえぬ声を聴く』幻戯書房、いただく。これは黒岩さんの単行本未収録エッセイ集。生きてても当然つくられたような本だが、主のいないのが淋しい。装幀の間村俊一は、カバーに土人形の鳩の写真を使っている。『伝書鳩』文春新書は単著として二冊目だったが、ぼくなどはこれで黒岩比佐子を知る。その前に『音のない記憶』があって、生前10冊の単著を世に問うた。10数年の光芒が残したもの。それが、このエッセイ集で見てとれる。背筋を伸ばしたいい仕事をしたことで余録のように残された文章が散らばって、ここに集められた。「日刊ゲンダイ」連載「ようこそ古書の森に!」に、せっせと古書展へ通った日々のことがつづられている。「古書道まっしぐら。周囲にはいよいよ「女」を捨てたか、と思われたに違いない」なんて書いている。神田や五反田で、棚と向き合っていた黒岩さんの後ろ姿を思い出す。きれいな本になってよかったね、黒岩さん。残されたぼくらも、死ぬまでぐずぐずと生きていきます。
先日、電話で善行堂と詩集について話していて意見が一致したんだけど、あまりに読まれていない詩人が、大量に眠っていて、顧みられること非常に少ない。どうか、この目で確かめて、いいものを拾っていきたい。紹介したい、という話。これは「昨日の眺め」における津田さんの「黒瀬節子の詩」の反響。そうか「歩希書房」は津田さんの出店なんですね。
丸谷才一『不思議な文学史を生きる』は、いまやあまり見ない一冊で、これは新井敏記によるインタビューが柱。もっとも仰せの通り、という流れで、それでいいんだが、新井が丸谷に一矢を報いた個所がある。『女ざかり』を論じて、丸谷の作品で「これだけ知的な女の登場人物が出てくるのは、これがはじめて」と発言して、丸谷が「はじめて(笑)」と驚いている。しかし、たしかにそうなのだ。『エホバ』も『笹まくら』も『たった一人』も、女性は知的とは言えない。丸谷作品を、金井美恵子斎藤美奈子豊崎由美などが、こぞって目の敵のように批判するのは、案外、そのあたりに気づいているのかもしれない。