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書きあぐねながら、角田光代『私のなかの彼女』書評を、なんとか「赤旗」編集部に送付。小説を書くことで、ある種、不幸になっていく女性が主人公で、難しいテーマだが、角田さんは生き生きとことばを操って、その人生を描いていく。小説のなかで、人が生きている。まったく、うまいもんだなあと感心しながら読み終えた。感心するだけで書評は書けないので、そこがつらいところ。
寒い朝、明け方に目覚めて、新聞を取りに行ったら、まだ空に月が出ていた。ベッドに戻り、いただいた三上延『ビブリア古書堂の事件手帖5』、坪内祐三『昭和の子供だ君たちも』などを読む。
庄野潤三の再読。あれもこれも、酒なんか飲んでる場合じゃない。でも飲むんだなあ。
トマソン社が制作中の、『岡崎武志展』図録だが、2月中にはなんとか出そう。近々のいちばんの楽しみだ。どんなふうに仕上るのだろう。
バスに乗って、どこかへ出かけたくなる。
噂の「ぽかん別冊」『昨日の眺め』が届く。封筒を開けて取り出したとき、「わあ」と声が出た。なんともいい出来。いい素材を、なるべくシンプルに味わうよう提供された和食の皿みたいな。大平高之のイラストを表紙から全面にあしらって、恵文社「古本市」出店者を始め、編集の真治さんが、本当に書いてほしい人だけ厳選して書いてもらったエッセイがページ毎に繰り出す。そのエッセイがどれも読ませる。巻末の各店古書目録は、もう会期が終わっているから買えないのだが、書目を眺めているだけでも楽しい。なにごとかを語っているのだ。津田京一郎さんが「黒部節子の詩」と題して、ほとんど無名のまま、この世を去った詩人の作品を紹介している。かそけき精密さ、というのか、これがとてもいい。詩集はいずれも入手超困難。頭に刻み付けて、即売会等を捜すことにしよう。
詩集を大事に扱って出品している目録が「歩希書房」。ここに黒部節子詩集がずらり、格安で並んでいる。おおおっと! 詩集は売れないと嘆くのは簡単で無策。どうですと棚に並べるのが心意気。詩集が並んでいない古書店の棚は、どこか貧相に見える。
こうして個人が、きわめて私的なエディションを、素敵なセンスで送り出すことが、もっと流行するといい。雑誌が売れない、なんていうのはマスの世界。過不足なく、少人数に届けば、そこに世界が生まれる。個人の時代が来たのだろうか。そうならば、未来に期待が持てる。『昨日の眺め』、大事にしょう。お求めは「ぽかん編集室」まで。早い者勝ち、と言っておく。