動画サイトで、現存する最古の成瀬映画「腰弁頑張れ」という30分ほどの無声映画を見る。喜劇である。保険の勧誘を仕事とする父親が主人公。赤ん坊を背負って裏庭で、靴に開いた穴に新聞紙を詰めている。あまりの貧窮を妻はなじる。男は、大口の保険が一軒入りそうで、と言い訳する。ロイド眼鏡で髭づらの大男を演じるのは山口勇。ウィキペディアによると、なんと小林信彦の血縁であった。撮影場所はどこだろう。一面に野の花が咲くのどかな場所に、点々とマッチ箱みたいな家が建つ。世田谷区あたりか。バックを電車が通り過ぎる。子どもの使い方など、なるほど小津のタッチに似ている。のち「小津は二人いらない」と言われ、成瀬は松竹を追い出される。
辻原登『闇の奥』が、まだ5分の1ほどだが、すでにじゅうぶんおもしろい。企みの手がこんでいて、実在人物とないまぜにして、事実と虚飾をシャッフルするのが辻原の作風。まあ、とにかく、目の詰まったおもしろい本を読みたい人におすすめ。
三省堂古書市は本日にて終了。お買い求めくださった方々に感謝です。この数日、「サン毎」用読書に努める。堀江敏幸『戸惑う窓』中央公論新社は、ちょっと変型のハードカバーで、なでさすりたくなるような美しい本。装幀は間村俊一