「風流交番日記」のこと。実写で撮影された新橋駅前交番は、いまも同じ位置にある交番(建物は違う)ではないか。もし本物が使われたとしたら、よく使用許可が下りたものだ。この交番が映るアングルで、向う正面に「沖正宗」と大きな看板を頂いたビルが映る。「沖正宗」は現在も営業する酒造メーカーなり。この映画、いい場面がたくさんあった。「スリだ!」の声に駆けつけた和久井巡査(小林桂樹)、逃げる犯人を追い詰め、近くのビルの外階段から屋上へ。そこで若い男性の犯人を、息を切らしながら捕縛するのだが、そのとき、正面に対した犯人をじっと見つめ、気づいたように後ろを振り返る。すると空に大きな虹がかかっている。そして犯人にこう言うのだ。「虹もきれいだったが、おまえの目もきれいだったぞ」。犯人は「ナニを言ってやがる」などと言うが、つまり真からの悪人ではなく、困って仕方なく罪を犯した、ということをここで示唆している。小林桂樹ならではの演技もあり、甘いけど、いいシーンだった。
この和久井巡査と同郷の娘(阿部寿美子)が上京してきて、ユリの名で街娼に身を落とす。この娘、和久井のことが好きで、なんとか手柄を立てさせたい。手配中の凶悪犯人(丹波哲郎)がぐうぜん客となり、秘かに和久井に通報。それに気づいた男が娘を激しく殴打する。娘はこれで鼓膜が破れ、片耳が聞こえなくなる。せっかく手柄を立てさせようと思ったが、和久井は若い後輩に手柄を譲る。娘は、鳩の街に移っていく。当時、隅田川を上り、船で向島まで行けたのか。和久井は娘の恋心も、鼓膜が破れたことも知らない。娘の気持ちを知る人情巡査(志村喬)がいい。荷物を抱え、渡し船に乗って去る娘の姿、その顔は晴れやかだ。
ラス前二回か、「日刊ゲンダイ」書評コラムに、「アメトーーク!」プロデューサー加地倫三『たくらむ技術』を取り上げ送付。