昨日のつづき。富士正晴記念館の講演で聴いてくれていた女性が、最後に二回も質問をしてくれた。熱心な人だなあ、と思っていると、終わってから近寄ってきて立ち話。ぼくのことは知らなかったみたいだが、興味があって聴きにきたという。話の前半は、ぼくが上京したときの話をしたのだが、彼女も「決めました。私も上京します」と言う。「ええっ!」とちょっとたじろいだが、前々からいろいろ考えていたらしい。それをぼくが後押ししたような格好になったのか。どうせ一度の人生だ。思い切って、やりたいことをやってほしい。
こういう講演やトークで、質問は、と言っても手が挙がることはあまりないが、この日は五人くらいから質問を受けた。最初が山田稔さん。思わず「山田さん、難しいことは聞かないでください」と言ってしまう。「いやいや、だいじょうぶ」と言ってしてくださった話は貴重なものだった。ぼくは講演で「ちくま日本文学」に「富士正晴」の巻があることの快挙を言ったのだが、それは山田さんによれば、同全集の編集委員をした鶴見俊輔さんの強い推挙によるものだという。なるほど、と思う。鶴見さんなら、そうだ。もっともだ。
二次会で、近親の方から、冨士さんは生前に、冗談まじりに「オレは全集に入らへんのや」とボヤいていたと聞いた。
同窓会で、近くに座ったNがしきりに、ぼくが文筆業をしている、その仕事のなりたち、どうやって食べているのかを聞いてきた。まじめにこつこつとサラリーマンをしてきた人間にとっては、原稿を書いてお金をもらうという仕事のあり方が、まったく理解できないらしい。そうだろうな、と思う。浮気している、という話を熱心にした同級生もあり、人生いろいろだ。
ほんと、いろいろ収穫の多い関西帰省だった。
「善行堂」に置いてもらった『上京する文學』は10冊完売したようだ。何冊か取り置きにサインを入れた。ぼくが善行堂へ入ったとき、すれちがいに出ていった女性は、Kさんだと思う。ノンちゃんのお友達。ひさしぶりの来店だったという。