okatake2012-05-28

時事通信社からの書評依頼の締め切り。佐藤卓己『天下無敵のメディア人間 喧嘩ジャーナリスト・野依秀市』新潮選書は400ページ以上の、中身がぎっちり詰まったノンフィクション。野依も、一筋縄では解説しかねる振幅のある怪物で、読むのにも時間がかかったが(ほとんど三日がかり)、書くのも苦労した。書評も一つの読みものだから、格闘のあとが見えてはいけない。野依はほとんど知られていない人物だから、彼の説明を必要、活躍が明治大正昭和にわたりと、とにかくこれを800字強でうまく収めるのに大変だった。
なんとか午前中に送付。
午後から文藝春秋社Kさんと打ち合わせ。文藝春秋の編集者はみんな礼儀正しく、心配りが細やか。ほかの社がそうではない、とは言っていない(気をつかうなあ、まったくもう)。川上弘美小池真理子選による「精選女性随筆集」シリーズに、『石井桃子高峰秀子』が入ることになり、その「高峰秀子」編の解説を書くことになった。斎藤明美さんの推挙がなければ、とてもぼくのところへ回ってこないような仕事だ。高峰秀子は大好きな女優で書き手だから、張り切ってやろう。石井桃子編の解説は千野帽子さん。
Kさんと会う前、いきなりの雷雨。逃げこんだ「ブ」で蓮實重彦フーコードゥルーズデリダ』、樋口覚『短歌博物誌』、石川光陽『昭和の東京』などを買う。
送っていただいた上原隆さんの新刊『こころが折れそうになったとき』NHK出版を一気に読む。吸い込まれるようにノンストップで読んだ。人物ノンフィクション・コラムという新しい分野を作った上原さんの、これまでの仕事と、仕事をする上で考える「私」のあり方について、さまざまな人物や本をからめながら考察する。これが、いまのぼくの心にぴたっと張り付くように、すいすいと入ってくる。回りに予兆をまったく感じさせず、いわば哲学的命題の証明のために自殺した哲学者、須原一秀に衝撃を受ける。著書『自死という生き方』双葉新書はすぐアマゾンで注文した。その須原について書かれた章が白眉で、上原さんがまた新しい野に出たな、という印象だ。いい仕事をされているなあ、とうらやましい。
サンデー毎日」今週号に、池内紀恩地孝四郎 一つの世紀』幻戯書房の書評を書いてます。対面は北條くんによる「群像新人文学賞評論部門」受賞の川田宇一郎さんの著者インタビュー。その裏面が平松洋子さんの連載です。西荻ブックマーク族は必読の号。