冷たい雨の朝。確定申告がらみの書類を整えに、妻と市役所へ。デジタルカメラで簡易に写した証明写真がダメと言われ、仕切り直し。雨が冷たい。
「あった、あった。」は昭和60年の中央線沿線古書店マップ。「春は土と草とに新しい汗をかかせる」という中也の「春」から引用する。
昨夜、CSでトライ・アン・ユン監督「ノルウェイの森」の長尺版を見る。ぼくは初めて。かなりの秀作ではなかろうか。確かなカメラアングルと超絶のライティング、抑えた演技指導で、スクリーンに独自の世界を展開していく。ハッとするほど美しい場面がいくつもあった。街灯が黄色く灯る雪景色をバックに、ワタナベとミドリが向い合うシーンとか、プールの水泳など。さまざまな室内シーンも単調にならず、晴れの日、雨の日、雪の日とバリエーションを作りながら、それぞれの家屋の質感をよく出していた。「腕」のある監督だなあ、と感心しました。女性を美しく撮る、というのは映画の大事な三本の指に入るポイントですが、その点でも合格。とくにレイコ役の霧島れいかがとても魅力的。音楽も画面を邪魔せず、気が付くと寄り添っているという感じで好感が持てた。
なにより、変な言い方だが、見ながら「ああ、これは映画だなあ、ぼくはいま映画を見てるなあ」と感じた。
それにしても菊池凛子の歩く足の速さはどうしたことだろう。眠るシーンの多い映画でもあった。
下手すると、原作をなぞるだけで、陳腐きわまりない映画になりえたかもしれない。村上春樹の小説はつねにそういう危険をはらんでいる。意外に映画化作品が少ないのも、本人がそのことを警戒しているのだと思う。この監督なら、「中国行きのスローボート」などの短篇を映像化したものなど、見てみたい気がしました。