カントリーガール

北條くんの御誘いを受けて、一緒に、20代の若手監督による最初の長篇映画「カントリーガール」試写を渋谷アップリンクで観てきました。現代京都の高校生たちと舞妓見習いの女性、そして喫茶店の老マスター(草森紳一みたい)が主な登場人物だが、ほとんど素人で、役者として知った顔が誰もいないというすごい映画。いちばん有名なのは脚本の渡辺あや。「カーネーション」も彼女だし、映画なら「ジョゼ」「天然コケッコー」など。そうか「火の魚」も彼女だ。すごいじゃないか。
だから、役者からは情報を得られない。素の素材だけ。しかし、受けた印象は強烈で、まちがいなく新しい才能が出てきたな、という感じを持ちました。山下敦弘の映画を最初に見たときの感じも、こんなだったなあ、と。
くわしくはhttp://www.countrygirl-movie.com/introduction.html公式ホームページを見ていただきたいが、なにしろ、台詞の半分ぐらいが聞き取れない。それでか、英語の字幕が入っている。英語をさっと見て、単語から、ああ、そんな感じのことを言っているのか,とわかる。
町家を改造した芸術家村構想があり、スペースを一つ借りて、何かしようと考えている高校生四人組が、京都にやってくる外国人観光客をだまして(表を舞妓が通ったと連れ出し、荷物から財布を盗む)、資金を貯めている。そこで、実際に通りかかった舞妓とその見習いの一人に、主人公格のハヤシという高校生が恋をして、ストーカーのように、彼女の周辺をうろつく。まあ、そんな話です。
だから最初、みんなが英語を喋っている(リーダー格のチバは英語が流暢)ので、そのあと、京都弁の会話になっても、しばらく英語に聴こえてしまう。なんとも不思議な感じです。北條くんとも話したけど、これは技術の問題(役者が素人であることと音声の問題)もあるが、たとえば同録でなくて、アフレコではっきり台詞を入れることは何でもないことなので、監督の意図というか意志のなかに、台詞がはっきり聴こえ、理解される必要はない、と思ったということでしょう。じじつ、全体のストーリーは、観ていればわかります。それより、京都の高校生たちの、ふだん喋っている会話の空気感を、そのまま生け捕りたかった。それは、成功している。
森という、70年代の京都を懐かしむ、ちょっと怪しい老マスターが喫茶店でパソコンに向い、高校生が入ってくるシーンはいつも同じアングルであるとか、この若手監督はなかなかしたたかに画面を作っています。ラスト近くで、画面が真っ黒になり、ギターの音楽が入るところ、ドキッとしました。
いい意味で、最初の「京都が舞台」「舞妓が登場」といった情報からくる先入観を裏切る映画です。もし、ゴダールが見たら、これを何と言うか。ちら、とそんなことを思った。
京都で先行上映され、5月から「ユーロスペース」で公開される。鮮烈なデビュー、と言っていいんじゃないか。ちょっとほめ過ぎたか。北條くんの意見も聞きたい。
そうそう、試写のモギリが、監督自身だったことに驚いた。名刺をもらいました。試写にまだ時間があって、隣のカフェで北條くんとお茶したのだが、ぼくはコーヒーを飲んだところだったので、何か別なものをと「ホットレモネード」なるものを飲んでみようと発言、北條くんも「じゃあ、ぼくもそれを」と、店員に「ホットレモネードを二つ」と告げたら、出てきたのがレモンティ二つ。「あれ? レモネードを頼んだんだけど」と言って、店員が驚いて困った顔をしたので、「いや、ぜんぜんいいよ、喜んでいただきます」と、そのまま二人でレモンティを飲んだ。あとで北條くんと笑いながら話したんだけど、口ひげ生やしたおっさん二人が、レモネードを一緒に注文したのが、やっぱりマズかったんだよと。ありえない話だ、と。仕事終わってから、店員たちのあいだで、おれたち二人、噂になるよ、と。まあ、そんな話をした渋谷でした。