冬の伝通院

昨日は寒風のなか、伝通院へ。田村治芳さんのお通夜に行ってきた。喪服に黒いコートという着慣れない服装で、行く前から緊張する。斎場はすでに満席。飾られた花は開いた本のかたちにデザインされ、その上に、あれは坂本真典さんの手によるものか、電話を耳にした田村さんの溌剌とした笑顔の遺影。いい写真だ。無宗教の献花だけで式はとりおこなわれ、読経のかわりに、田村さんがトークショーの余興でやった振り市の声が流れる。いかにも田村さんらしい、ユーモアあふれるアルトが会場を埋める。すてきな演出。知っている人がたくさんのお通夜で、帰りは関口「昔日の客」母子と、夏葉社さんと一緒に飯田橋まで喋りながら歩く。夏葉社さんのお父さんが、香港で新刊書店を経営していたと聞いておどろく。
一人になって中央線、高円寺で途中下車して「コクテイル」へ。この日が店開き。黒尽くめの服装で入っていったら、狩野くんが「ギョッ」と動揺していた。殺し屋と思ったのかしらん。湯豆腐に熱燗一本頼んで、カウンターにもたれてしんみり飲んでいたら、小津安二郎の映画の登場人物みたいな気分になってきた。
「いいお通夜でしたね」「ああ、そうだね」「田村さんらしい、というか」「ああ」「息子さん、大きくなられて」「ああ、大きくなった」「学生服なんか着て、背も高くなって」「ほんと、学生服を着てたね。背も田村さんより高くなったんじゃないか」「田村さん、それだけが心残りだったでしょうね。息子さんのこと」「本当だね、もう少し大きくなるまで、生かせてやりたかった」なんて、小津ごっこの会話を一人でする。
熱燗一本であっさりと店を出たら、足下から凍えるような寒風が。帰宅して、また熱燗をしつらえ、「ブラタモリ」総集編と「アメトーク」を見て寝る。髪をかきむしってキレる鳥居みゆきに、それを鎮めるため、蛍ちゃんが、同じように髪をかきむしるシーンにもだえて笑う。