山田洋次の日々

このところ、毎日のように山田洋次作品をDVDで観ている。「同胞」、「家族」、「遥かなる山の呼び声」、そして今日「故郷」を観た。ギンレイで「幸福の黄色いハンカチ」を観てるから、続けさまだ。人が必ずコケて笑いを取ろうとするところ以外、ぼくは、もっともっと山田洋次を評価したいと思う。このなかで一番泣いたのが「遥かなる」で、作品的にもっとも素晴らしいと思ったのが「家族」だ。
「遥かなる」なんて、何度観たかわからないが、何も観てなかったんだなあ、と思ったのが、最後に手錠につながれて網走へ向う健さんが、ハナ肇のいわば通訳を経て、倍賞千恵子の愛を知り、泣くシーンがあるが、そのとき手渡すハンカチが黄色いハンカチなのだ。「幸福の黄色いハンカチ」だ。それと、倍賞さんが腰を痛めて入院し、寂しくなった武志(純くん)が、馬小屋で眠る健さんの蒲団にもぐりこみ、そこで健さんの父親が無惨な自殺を遂げた過去を聞く。それでも、歯をくいしばって泣くのをこらえた、と話すのだ。ああ、そうか。ここで「泣かない」と話すことが、ラストで泣くシーンにつながっていくわけだ。泣かないと誓ったはずの男が泣くから、より感動が増幅されるのだ。
また「遥かなる」で、倍賞が「冬はつらくって、それでも春になったら一面に花が咲いて、今年はいいことがあるんじゃないかって思える」みたいなことを話すシーンがあるが、これは「家族」で、まったく同じようなセリフが倍賞により話される。つながっているわけだ。ちなみに、「家族」「遥かなる」「故郷」ともに、倍賞の名は民子。
「故郷」で井川比佐志と倍賞の子どもとして、二人の小さな女の子が登場し、それぞれ「ちあき」「まゆみ」と呼ばれるが、二人は実際に姉妹で、名前も役名そのまま。たぶん二人は、舞台となった呉市倉橋島の子どもで、現地採用されたのではないか。下の子が、いつも両親にくっついて船に乗るが、まったく酔わず、平気な顔をしているのは、船に乗り馴れている証拠だ。二人は素人で、それで、いつも呼ばれている名前を、自然にそのまま採用したのだろう。また、倍賞が義弟の前田吟の家を訪ねるが、広島の市電が映る。紙屋町と皆実六丁目の電停も。つい、こないだぼくも乗ってきたばかりだ。7日の朝、ホテルをチェックアウトしたあと、時間があったので、これまで行ったことのない広島港まで、ただ市電に乗って、広島港についたら、向いに停まってる電車に飛び乗って折り返して帰ってきた。ただただ、市電に揺られたかったのだ。皆実電停もその途中にある。こういう偶然はうれしい。
「故郷」には、誰かがコケて笑いを取るシーンが一ヵ所もない。気迫のこもった作品だ。瀬戸内の風物が美しい映画で、これはDVDが欲しくなった。
「寅さん」含め、山田番カメラの高羽哲夫の撮った昭和日本の風景は、国宝ものだと思う。
山田洋次論をどこかで書きたいと思っている。