ちょっと長いな

今日はとりあえず早稲田穴八幡「青空古本市」だ。いくつか探求書があり、心がはずむせいか、階段下の文庫を並べた台で、気がついたらけっこう大きな声で歌をうたっていた。それが森山加代子の「白い蝶のサンバ」だ。先日のオールナイトニッポンで、坂崎と拓郎がギターで次々と日本の歌謡曲をうたっていたとき、この「あなたに抱かれて私は蝶になる」のところで、坂崎が拓郎の「とっぽい男のブルース」(だっけ?)を続けて歌い、それがそっくりで、「そうか、これはパクリだったのか」と拓郎が言った。それが印象的で、それから、何かあると「あなたに抱かれて私は蝶になる」と歌うぼくがいる。
「青空」では、岩下尚史『芸者論 花柳界の記憶』文春文庫をまず。こんな本、出てたの知らなかったよ。田村隆一詩集『ハミングバード青土社1992年の刊で500円だったが、いちばん後ろに「田村隆一さんの古稀を祝う会」の会費領収書がはさまっていた。これはおもしろい、と表紙見返しを見たら「隆一」とふるえる字でサインが。田村さん、酔っぱらってるな、この字は。田坂憲二『文学全集の黄金時代 河出書房の1960年代』和泉書院も、買いそびれていた一冊で、なかに何ヵ所か赤いボールペンでラインが引いてあったが、どうせこっちも線を引きながら読むような一冊で、まあいいやと買う。350円は安いもの。新書判の『名作案内 日本のプロレタリア文学』は、便利なガイド本。内藤辰雄の「人夫市場」の解説もあるが、これ、内藤陳の親父ですよ。そのほか数冊。レジで、横綱審議委員会みたいに神妙な顔をして座っている岡島・向井の両巨頭に挨拶。
ひさしぶりに早稲田古本街を流して、高田馬場まで歩く。ひるどきなので、「ワセダ菜館」という古い定食屋で日替わり定食をたべる。650円と安い。ゴハン,少し残す。学生街だから、盛りがいいのね。ワセダの均一は、いま、文庫50円なんだ。ちょっと安すぎるんじゃないか。虹書店だと20円。渥美書房均一で、杉本秀太郎『パリの電球』、池島信平『雑誌記者』これは花森安治装幀、などを100円で買う。
サンデー毎日でひと仕事して、今日で最終のプログラムの「ギンレイ」へ行くつもりが、めんどうくさくなって東西線にのりこみ、高円寺下車。即売会でまたがさごそ。帳場のとんぼさんに、先日の西荻ブックマークのこと聞かれ、「彷書月刊」のことを話していると、目の前に連載陣の一人、河内紀さんが現れたので驚く。ひさびさに河内さんとコトバを交わす。『明治百年』、川崎房五郎『明治東京史話』ほか数冊を買う。ほんとうは、この2週間ぐらい、斎藤茂太の『茂吉の周辺』中公文庫を探していて、どこにもなくて、ここで元本の毎日新聞社版を見つけたが800円で、もちろん適価だが、ううんと迷い、ひょっとして「都丸」のカベキンにありそうだと、「都丸」へ行ったら、やっぱりここにあった。ちょっとありそうな予感がしたんだが、それでもあったときは「おおっ、あなたに抱かれて私は蝶になる」と歌ってしまった。都丸のえらいところは、ちゃんと落丁繰りをやっていて、線が引いてあったりしたらそこに付箋をはさんであることだ。『茂吉の周辺』には、付箋があって、見たら少しシミがある。まったく問題なしの100円だ。北杜夫『青年茂吉』も買う。
帰りの電車で、出たばかりの毎日ムック『神田神保町古書街2011』を読んでいたら、角田さん、石田千さん、畠中さんと女性陣ががんばっていて、おもしろく読んだが、いま本の世界でスター並みの扱いブック・ディレクターのハバ・某さんが、神保町で古本ハンティングをしている記事に、4、5行に一回、ムカッとくる。どこがどうということではないが、ぜんたいに、同じ古本あさりでも異邦人のようだ。片手に大きな財布だけを持って、颯爽と現れるところで、まずムカッときて、1軒目での豪快な買いっぷり、でまたムカッときて、「神保町には車で来て、歩くときは手ぶら。買った本は店に預けて、最後に車でピックアップして回ります」でぶち切れた。小さな財布で、カバンにもトートバックにもパンパンに本を詰め、けっして豪快ではなく卑小な買い物しかしないボクより、神保町にとっては、まちがいなくハバ某さんのほうがいい客で、勝ち負けで言えば、ぼくの負けだが、もう負けでいいよ。
ようやく「上京する文學」3、斎藤茂吉編を深夜書き上げる。三枚半ほどの原稿にかけた時間と資料買いと読込みは、おそろしくコストパフォーマンスの悪い仕事だが、これは大事に行く。
あ、創刊された実業之日本社文庫が全点、どさっと届きました。東野圭吾のは、今日の「サンデー毎日」短評で紹介しておきました。