古本屋開業講座

okatake2010-07-04

3日、五反田。即売会ではなく、古書会館で南部主催による「古本屋開業講座」が開かれたのだ。50名定員のところ、ほぼ満杯だった。遠く東北、静岡、おおさかからも来ていた。半分が40以下のわりあい若い層。ご夫婦か、カップルも5、6組はいた。
うさぎ書林さんの企画、司会進行で、古書一路さん、ほん吉さん、田八(でんぱち)さん、トリが西村文生堂の西村さんと、それぞれの経験、立場から、古本屋経営と組合加入のメリットなどを話された。4時間近く座りっ放しだったので、最後ケツが痛くなったが、教えられるところ多く、有意義な会だった。当然ながら、それぞれ一国一城の主であり、みなさん、信念を持ってやっておられる。百店あれば百の信念があるわけで、逆に信念がなければ、またたくまに瓦解してしまうような商売でもある。そこのところがおもしろかった。
ネット専門の古書田八さんはヨコハマの古書店で長らく店員をされていて、平成19年に独立、組合加入したというが、雑誌を中心に販売。これまで状態についてクレームがきたことは一度もない、というのが雑誌ではすごい。状態の悪いところは写真で示すからだというが、ヤフー専門で出しておられる。仕入れはほぼ組合の市場で、値段の高いものから買うとのことだった。
「ほん吉」さんは、いつものおっとりフワフワで、独特の世界で喋っておられた。店売り専門というのが珍しく、さいきん、ようやく日本の古本屋への出品を始めたが、少しでも店の方にダメージがあれば、ただちにネット販売は撤退すると潔い。お店は「園芸」と同じで、かまいすぎてもダメで、手入れを怠ると枯れてしまう、とのことだった。
「うさぎ書林」が随所で、まとめ、補足をしていたのだが、「古本屋は努力が報われる珍しい仕事」とおっしゃってたのが印象的だった。
最後の西村さんは自由が丘「文生堂」の三代目。22歳で家業を継いで17年。この日登壇したなかで一番のキャリアで、さすが波にもまれてきた自信にあふれた喋りだった。店へ来る客は最盛期の半分、店売りも半分くらいになったが、それでもやっていけてしまう。家賃が下がり、なんといっても市場での買値が安くなった。売り方も幅広く多用になったことで、儲け自体は最盛期と遜色ない、というのがすごい。『天皇の世紀』『漱石全集』『茂吉全集』などは、店に置いていても売れない筆頭の全集、シリーズだが、ネットだと最低価格をつけておけば確実に売れる。「漱石全集を探している人って、日本に、一日に二人はいるものなんです」というのがおかしかった。そうかもしれない。昔は、値段が自分も客もわからない。古本屋によって決まる秘技で、知識と経験が必要とされた。ロマンチックだった。いまは値段がオープンになっている。それでも見たことのない、値段のわからない本が出る。それは高く売れる。
「自分の(売る)スタイルを作ったものが勝ち」とも言う。いま、東京の古書組合の加入費は37万円。かつては80万円の時代もあって、いまが入り頃だ。
「考える人」夏号が届く。「特集 村上春樹ロングインタビュー」は100ページにわたる超大作。都心から離れたホテルに、松家編集長と村上春樹が二泊三日でロングインタビューを試みた。「1Q84」は青豆、天吾の名前だけまず思いついて、そこから書き出したそうだが、村上が自作について、いかに自覚的であるかがよくわかる話が続く。津野海太郎花森安治伝」が新連載で始まった。たのしみ。黒川創「きれいな風貌 西村伊作伝」も連載中、ほか原武史の連載もあり、充実している。
書肆紅屋さんが、先日の黒岩比佐子さんとのトークを、ていねいに、完璧に再現してくださってます。会場に足を運べなかった方、運んだ方も改めて、味わっていただければと思います。そうそう、「宗方コーチ」のギャグが、紅屋さんにはちゃんと通じていたというのが、うれしかった。これは仕込みです。
http://d.hatena.ne.jp/beniya/20100625#c

おっと、忘れてました。中野晴行大兄より、『「はとバス」六〇年 昭和、平成の東京を走る』祥伝社新書、をいただきました。
戦後東京の風俗、風景を、「はとバス」を通して追うという試み。わたしの関心とドンピシャです。80ページに掲載された、「東京遊覧 はとバス」パンフはぼくも持っております。