古本屋さんたちとの夜

昨日、家内に頼まれ、吉祥寺の銀行へ住宅ローン払い込む。機械の操作がわらかず、近くに立っていた案内の女性に訊ねたら、なぜかひどく動揺したようで、窓口へなどと言い出す。いや、機械でできるはず、と言って、ようやく操作を(入金を探していたら、お預け入れというのがそうだった)教えてもらう。犯罪者が人の通帳から悪い事をするように見えたのだろうか。
サンデー毎日で仕事。帰り、神保町へ。タテキンで漁ってたら、塩山御大に声をかけられる。ぼくは工作舎が77年に出した『スーパーレディ1009』ほかを買う。これは雑誌みたいなビジュアルで、女性による女性のための女性事典。いつも「上」しか見つからないが、「下」は出たのか。
コミガレで文庫2冊。「愛書会」で、扶桑書房棚の前にいると、マニアックな古書情報を喋り合っている二人の男性。片方は真田くん。なんでも朝いちばんで並び、本を預け、また追加を狙って来たようだ。「きょうの、扶桑さん、ほんと、すごかったっす」とえびす顔。お茶に誘われ、一緒に「ヒナタ屋」へ。途中、かつて明大アカデミーの聴講生で、ときどき古本がらみで御見かけする男性と出逢い、一緒に行くことに。小一時間、あれこれ、ほとんどその男性の趣味ライフの話を一方的に聞く会になる。しかし70過ぎて、悠々たる人生でうらやましい。サラリーマン時代も「一日にちゃんと働くのは30分」「全体の3割の社員がまじめに働けばいい。カイシャを儲けさせ過ぎてはダメ」と言う。まるで植木等のノリだ。
真田くんと別れ、QBで散髪。帰ろうと、長島ショテンの前を通りかかったとき、海ねこさんに遭遇。「オカザキさん、これから山路(古書サンエー)さんと飲むんですが、一緒に、飲みません?」ニコッとやられ、うんうんうなづくぼくがいた。あとで、喇嘛舎さん、九曜さんで働いているMちゃんも加わり、どがちゃがに。喇嘛舎さんに、しきりに古書組合に入れ、目録に10ページ参加せよと言われたことだけが印象にある。しかし、古本屋さんたちと飲むのはおもしれえや。ここに書けない話ばかり。海ねこさんがいなければ、おそらく話をする機会がなかったろう人たちと話せてよかった。
人生劇場通りのビルのなかにあるジャズバーで締め。しらなかったよ、神保町にこんな店があるとは。また来よう。
電車のなかで、コミガレで買った瀬戸内晴美前田愛『対談紀行 名作のなかの女たち』岩波同時代ライブラリーを読んでいたのだが、谷崎の章で、かつて瀬戸内が目白台アパートに住んでいたころの話がおもしろい。ちょうど、谷崎が熱海の家の建て替えで、臨時の宿としてこのアパートに二室借りていた。仕事部屋として使っている方の同じフロアに瀬戸内もいて、谷崎の部屋の前を通るときドキドキした。谷崎論の著作もある河野多恵子が瀬戸内を訪ねてきたとき、興奮して、思わず谷崎の部屋のドアにキスをした。しかし、それは隣りの部屋だった。谷崎は、どうも同じアパートに貧乏な女性の作家がいる、ということを知り、ろくなものを喰ってないだろうと、ときどき松子夫人に弁当を届けさせた。その弁当は「吉兆」の弁当だった。目白台アパートの下が江戸川公園。アパートから石段を降りてすぐなのに、毎朝、中央公論社から黒塗りの車が谷崎と夫人を迎えに来て、公園の入口まで送る。二人は悠々と公園を散歩したそうだ。さすが大谷崎
いま調べたら、「目白台アパート」とは、現存する「目白台ハウス」のことみたい。1962年竣工の高級マンション。円地文子もここにいた。