昨日いらつしつてください

okatake2010-04-30

「ぐるり」の表紙をずっと描いていたイラストレーターの沢田としきさんが亡くなった。51歳だった。先日、志らく独演会の帰り、コクテイルで飲んでいるとき、早耳情報局のネギさんが、そんなことを言っていたが、酔っぱらっていたので忘れていた。
ぼくの弟が京都で開いているバー「ディラン・セカンド」のロゴのデザインが沢田さんで、一度、前のコクテイルにいらっしゃったとき、挨拶したが、初対面だったのに「前に、一度お会いししてますよね」とおっしゃったので、ああ、これは弟と間違えているなと思ったのだった。それが最初にして最後だった。60歳を手前に、同世代の人がバタバタと倒れていくのを見るのはつらい。http://blog.livedoor.jp/pintor_toshiki/
室生犀星の「昨日いらつしつて下さい」という詩をちょっと思い出した。
「きのふ いらつしつてください。/きのふの今ごろいらつしつてください。/そして昨日の顔にお逢ひください、/わたくしは何時も昨日の中にゐますから。
きのふのいまごろなら、/あなたは何でもお出来になつた筈です。」(後略)
先日、谷川書房で買った、どちらも敬愛する書き手二人による往復書簡、徐京植多和田葉子『ソウルーベルリン 玉突き書簡』(岩波書店)を読む。多和田が、日本人にとって「迷惑をかける」という表現が「ものすごい重圧感と圧倒的な罪悪感」で捉えられ、自殺にまで追い込むことに異議を唱え、「もっと迷惑をかけた方がいいのかもしれない。迷惑だって人にかける橋なのだから」と書いているところに強く反応する。迷惑をかけあうことを忌避し、恐れ過ぎて、孤立し、袋小路に陥ってしまう。それでは生きていて、何にもならない。
「寅さん」なんか、まわりに迷惑をかけっぱなしで、しかし、なんとなく周囲を幸せにするのだった。