みすず、菊坂、コロンビア

昨日は本郷の「みすず書房」を訪ねる。菖蒲忌の5月刊行を予定している「大人の本棚 野呂邦暢随筆集(仮名)」の、第一次選択を終え、担当編集者の宮脇さんと相談。
みすず書房」を訪ねるのは初めて。都営三田線「春日」が最寄り駅だが、中央線を使うとなると、お茶の水から丸ノ内線で「本郷三丁目」下車というコースを取る。ほんとうにひさしぶりに、本郷三丁目交差点近くのビルの奥にある「大学堂」へ。通路からいきなり店になる、入口も出口もない大胆な店だ。東京本が充実していて、前からあれば欲しいと思っていた堀越正光『東京「探見」』宝島社を見つけ、600円という手頃な値段で買う。そのまま本郷通りを赤門方面へ行き、本郷局手前の道を西へ。このあたり、昔ながらの商店、木造のしもたや風の家屋など残り、いい感じ。「みすず書房」は、明示の建築という鳳明館という旅館の前、胸突坂を登り切ったところにある。宮脇さんはこの坂を上り下りしているのか。「みすず」は白亜の殿堂と言いたいところだが、白っぽい壁の簡易な建築らしい。スチールの本棚で中央に通路を造り、壁はなく、すべてこの本棚でレイアウトして、各部署を作り上げている。いちばん奥に創業以来の出版物が並ぶ。あとで、これは見せてもらった。最初は茶色っぽい背、それが「みすず」カラーの白い背に変わっていく。小沼丹の最初の作品集『村のエトランジェ』を発見。思わず手に取り、いいなあ。つい、傍らの宮脇さんに不謹慎なことを言う。ほか、創業からの「みすず」の広告、書評を張り込んだスクラップとか、あこがれの出版社探検をさせてもらった。
このあと胸突坂を下り、菊坂散歩。一葉の旧居跡(あの井戸は健在)も訪ねた。
夜は神保町を経由して新橋へ。岩田くんの仲立ちで、もと日本コロンビアの文芸部にいた飯塚恒雄さんに、いちばん元気があったころの音楽業界の話を聞く。銀座のビル奥にあるカウンターバーで締めをして、帰宅。いい一日だった。


西荻ブックマーク「私は古本ストーカー」で、最後に質問があり、これからの古本屋、というようなテーマであったが、ここはメモを取ってなかったのだが、たしか田村さんがこういうようなことを言った。
これからの古本屋(が生き延びる道)は、自ら限界(コトバは違ったかもしれない)を作らなければいけない。たとえば、今年以降に出た本はもう自分の店では扱わない。あるいは、平成以降に出た本は扱わない、というような。ジャンルで特化させるというのはよくある話だが、これはなるほど、と思った。もと言えば、「昭和」に出た本しか置いていない、というのは一つのジャンルになる。じつは答えにくい質問だと思ったが、田村さん、さすがだなあ、と感心したのだった。じつはこれは新刊書店にも言えるのではないだろうか。