ぴんから兄弟

映画館へ入るのに自転車をどこに止めるか苦労する夢を見た。入口は名画座っぽいのに、館内に入ると、国立競技場よりなお広く、スクリーンがはるかかなたに小さい。数万人を収容というような映画館で、スクリーンの大きさは普通。これは早く、前のほうの席を確保せねばと焦る。
NHKが連日、「紅白」の視聴率をあげようと躍起になって、民放以上にしつこく宣伝をしている。60周年を振り返る、という番組で、過去のVTRで対決させる企画があったが、ぴんから兄弟の「女のみち」、殿様キングスの「女の操」あたりで、頭がくらくらする。ほとんど放送コードぎりぎりの異形、塩辛さで、「ど演歌」の「ど」に病だれとしんにょうをつけたぐらいのしつこさだ。溶かせば十年分ぐらいもつ濃いさ、といってもいい。なんだったんだろうな、あれは。
「ぴんから」兄がマイクも渡されず、電柱みたいに突っ立って、これも音が拾われないギターをつま弾く姿もすごい。あの屈辱に堪えられれば、どんな仕事だってできる。
「紅白」は、ぼくは、いまや視聴率20%を目指せ、と言いたくて、40代以上を満足させる番組づくりをして、それ以下の世代は、見たければ見ればいいというつくりでいいと思っているのだ。年に数組、「なつかし」枠で、あの人はいま的歌手も出してほしい。ぴんから兄弟、見たいよ。
掃除したら、すきまから出てきた梓林太郎『回想・松本清張』(祥伝社文庫)を、濡れてもいいやと風呂にもちこんで読み始めたら、えらくおもしろい。山岳ミステリの第一人者である著者は、若いころ、セールスマンや調査員などさまざまな職を経験し、その経験を作家デビュー前に清張宅へ出かけては話していた。清張はそれをネタに小説を書いたのだ。三分の二は作家になる前の人生の回想だが、これが殺人の出てこない松本清張という感じで、おもしろいのだ。
大江健三郎『水死』もやっと読み始めた。