冷たい雨

okatake2009-12-12

11日午前、早起きして、半日遅れの「ENGINE」書評、津野海太郎『したくないことはしない 植草甚一の青春』新潮社、を送る。
すぐに支度して外出。冷たい雨だ。うまくバスがなく、妻に駅まで送ってもらう。車中、長部日出雄『天才監督 木下惠介』新潮社(なんだか、新潮社の宣伝ばかりしているな)を夢中になって読む。木下の評伝だが、木下の全作品を紹介、批評しながらというスタイル。木下惠介が本名正吉であることは、実家が浜松の漬物屋で、木下が漬物嫌いであることは有名だが、その理由もわかった。それから、木下が一度、短い期間だが結婚しており、公然の秘密のようになっているゲイ説を、長部はきっぱり否定している。戦時中、本を疎開させたとか、「花咲く港」の撮影中に出演者が仲よくなり、俳優座が結成された、とかおもしろい話がいっぱいあるんだよね。あっというまに半分読んだ。
この日の昼食は、「サン毎」担当のIさん、ライターの緑くん、元・東京人編集者で、いまはエコノミストを手伝っている花崎くんと「アラスカ」で。いつもやっているライターの忘年会ができなくて、その代わり。ステーキランチを食べる。3000円以上する。昨日の2500円弁当といい、連日のぜいたくだ。ぼくは身体がでかいせいか、お店の人がよく気をつかって大盛りで飯をよそってくれたりするが、この「アラスカ」でも山盛りのゴハン。半分以上のこしてしまった。なにが言いたいか。べつに言いたいことなんかないんだけどね。
サン毎を終え、来年一発目の書評本として、平山亜佐子『明治大正昭和 不良少女伝 莫連女と少女ギャング団』(河出書房新社)を選ぶ。これは、なんだかおもしろそう。
雨のなか、神保町へ移動。「書窓会」を覗く。一巡目は何も買えず、まあこのままボウズでもいいや、と思ったが、まだ時間があるので、もうひとまわり。やっぱり何か買わないと寂しいぞ、とぼくが収集している「実業もの」として、『抜群の人々』実業之日本社、700円。庄野潤三の自選随筆集『子供の盗賊』がなぜか100円。もう一冊、小学生全集武井武雄絵『黒馬物語・フランダースの犬』も100円。それから「みはる」出品の昭和9年東宝宝塚劇場パンフが10冊ほどの束で800円。
ドトールで、戦利品を点検し、『木下惠介』を読み継ぎ、千駄木へ。「古書ほうろう」で、ナンダロウプレゼンツ、音羽館・広瀬&往来座・瀬戸のトークショー。これはまた、誰かが報告してくれるでしょう。あれ、紅屋さんがいなかったなあ。瀬戸くんが上がっているのか、そういう性格なのか、ナンダロウくんの質問からいちいち脱線し、自分の世界に入ってしまう。調子っぱずれの前衛ジャズのサキソフォーンみたいだ。しかし、大いに笑いをとる。
瀬戸くんの独立の経緯もよくわかった。3時間近い長丁場になり、みなさんは残って打ち上げをしたようだが、ぼくはお先に失礼する。

気谷誠『西洋挿絵見聞録』アーツアンドクラフツ、の書評締め切りが迫り、読み始めているのだが、気谷さん、昨年亡くなっていたんだ。「銀花」で特集をやったみたいだが、死後、蔵書はパリの売り立てにかかったという。突然の苦しみに検査したところ、肝臓ガンが発見され、すでに手遅れだったようだ。まだ54歳だった。同じ古本を触るのでも、たとえばぼくは田村の店頭圴一で、気谷さんは二階の洋書売り場。会わないはずだよ。買う本のケタも〇が三つ、四つぐらい違った。もっとか。気谷さんをよく知る人で、ぼくのことも多少知ってくれているなら、「あんな野郎に気谷さんの本のことがわかるか」と叱られそうだが、いっしょうけんめい書くのでお許しください。