西荻発「すぎ丸」に乗った

okatake2009-12-07

こいつはいい天気だ、というただそれだけの理由で外へ飛び出す。紹介もせずに、貯まった新刊受贈書を音羽館へ売りにいく(もうしわけない)。昨日は意識しなかった、高架になった中央線上りを、車窓の景色をちゃんと見ながら乗る。そうかそうか、国分寺を出て、しばらく住宅街の谷を走って、下へ降りていくところをふわりと上っていく感覚が、これがそうか、と思う。
「丸福」でラーメンを食べて(変色した有名人の色紙がいっぱい。岸部一徳とか糸井重里とか)、音羽館へ。広瀬くんがいて、査定してもっているあいだ、ごそごそと。花田清輝「新編 映画的思考』の元本300円、ちょうど広瀬くんが追加にもってきた(ちょっと状態が悪いんで、と)野坂昭如『わるい本』をそのままもらう。100円。店内で長部日出雄『天才監督 木下恵介』新潮社が、品切れで1200円。2005年に出た本なのだが、気づかないまま品切れになっていたようだ。これは読みたい。
杉並区の巡回ミニバス「すぎ丸」は阿佐ヶ谷と浜田山を結んでいて、これには何度か乗ったが、西荻久我山も走っていることを今日知り、試しに乗ってみる。駅前を渡って高架下のショッピングセンター「マイロード」前に停留所がある。0分20分40分と各時間に出発。少し待って乗り込む。乗客は6、7人。阿佐ヶ谷発と同じく、くねくねと住宅街を縫うように走って行く。神明通りから、五日市街道、井の頭通りを縦断して10数分で久我山駅入口へ。ちょっとした旅行気分だ。
久我山駅ドトールで珈琲を飲み、神田川沿いを吉祥寺まで歩く。12月とは思えない、おだやかな空気だ。並木の葉はすでに落ちて、空がよく見える。枝にとまった鳥もよく見える。
三鷹台の手前で、前から行きたいと思っていた「ビーラビッツ」という絵本専門の古本屋をついに見つけ、店頭に立つが、遮蔽するようにガラス戸にたくさんのチラシ、紙類がべたべたと貼ってあり中が見えない。それでも隙間から覗くと、新旧世代の女性が二人、熱心に絵本を選んでいる。ここで気が臆して、とうとう入れなかった。ぼくなんかが入ると、女性下着売り場へ迷いこんだように、ジロリと見られるのではないか、という雰囲気なのだ。印象がまちがっていたらごめんなさい。いつでも訂正します。
落葉を踏みしめ井の頭公園へ。踊りながら叫びながら自転車を漕ぐおじさんを見る。「太宰治は『人間失格』ではありませーん』とか、手製の小さなメガホンで言った後に、「ナハナハナハ」とせんだみつおのギャグを片手片足を動かし、自転車に乗りながらやる、という奇抜な人で、みんなニコニコ笑いながら見ている。どこで壊れてしまったのか。しかし、ちょっと愉快で不愉快ではない。
吉祥寺「ブ」で、このところ見つけると買っている105円漫画文庫で『巨人の星』234があったので買う。帰宅してお父さんカレーを作る。
電車のなかでは荒川洋治さんの新刊『文学の門』(みすず書房)を読む。「週刊朝日」の読書コラムを中心に、各紙誌に発表した書評を収める。書評という体裁を取っているが、つねに言葉と文章、それに本を巡る状況論でもある。
古井由吉『人生の色気』新潮社は、語りによる自伝あるいは戦後日本の変遷という本だが、こういう言い方はなんだが、予想外のおもしろさであった。これはどこかに書きたい、と思っている。