下町の熟練工

okatake2009-08-29

娘は夏休みの宿題、選挙へ行こうポスターをかきあげたらしい。夏休みももう終り。
昨日は「書窓展」を、少し時間をずらし覗く。おもしろブックふろくのマンガ『弥次喜多膝栗毛』(昭和30年ぐらい)を300円で。弥次喜多ものを、きばらず、気づいたら買っている。そのほか、「あきつ」で何冊か。ご老人が、杖を斜めに、防御するように本棚に立てかけ、台の下にあるストック本を、懐中電灯で照らし見ている。3、4人分ぐらいのスペースを占拠している。すぐ横では、マンガで描かれるような虫眼鏡で本棚をなめるように見ているご老人。先輩方の果敢な闘争精神と熱心さに敬服。
コミガレで、『銭形金太郎発ビンボーのススメ』(テレビ朝日)を見つけコーフン。すぐ脇に抱え、残り2冊を四苦八苦して拾う。裸本だが寺山修司『幸福論』、井上究一郎『幾夜寝覚』の2冊は、善行堂行きだ。
今日は盛夏の暑さが戻り、木陰ビル陰をたどって竹橋へ。サンデー毎日。いちおう選んだ6冊が、書評ページ担当のIさんの、書評依頼の都合で、コロコロ変わる。それはまったくかまわない。「ごめんなさーい」というIさんに、「ぜんぜん、まったく、問題ないです。涼しい顔です」と答える。「この本、誰に書評してもらったいい?」「何か一ページ書評でできる本を?」など、相談を受けながら、いつも6冊の短評を、あっというまに書き上げる。下町の町工場の熟練工のような気分だ。
この日は、7時から西荻で、朝日新聞出版の「古本検定」取材で、北條くんが穂村弘さんにインタビュー。それに付き添うことになっている。ひさしぶりに「ギンレイ」で映画を、と思ってスケジュールを見たら「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」をちょうど見られる。見れば、そこそこ面白いのかもしれないが、予告を見たかぎりではちょっとなあ。で、阿佐ケ谷へ移動。向井くんにもらった招待券で「ラピュタ」へ。しかし、次の上映まで二時間近くある。「ブ」へ寄って、喫茶店で時間をつぶす。今日いちにち持ち歩いた、芝山幹郎『映画一日一本365』朝日文庫を再読。わずか800字に、映画の基本的な情報、みどころ、新たな知見を書き加えてみごとなガイドだ。
ぼくの「弱点」と言っていい程好きな「冒険者たち」。監督も女優も凡庸。それでも「さまざまな乗物を使って、『移動』という名の酸素を情感に吹き込もうとしたのだ。醜悪に陥らなかった凡庸を、私はしりぞけたくない」と評している。「ビバリーヒルズ・コップ」の「マーフィは、『人間ネズミ花火』と名づけたたくなるほど突飛な怪優だった」。
ラピュタ」は入口で、地下の店を使ってパーティでもあるのか、頭に三角巾を巻いた人達が受付をしている。武満徹の映画音楽特集、今日は「二十一歳の父』を見る。中村登監督。原作曾野綾子、撮影が名手成島東一郎。主演が山本圭倍賞千恵子。父親役の山形勲がじつにいい。山形勲をたっぷり観る映画だ。秋葉原、堀切、蒲田などが映るが、なんでもない町のシーンがそそります。
穂村さんを交え、夜は朝日の小柳さん、音羽館の広瀬くん、ライターの北條くん、ぼくで、喫茶店、レストランと移動しながら談笑。穂村さんとちゃんと喋ったのはこれが初めて。特徴的な眼をいつも見開き、誠実に受け答えする姿を見ていて、女性ファンが多いのはこういうことだなあ、と感心する。身体を通さず、喉と舌だけで発する声もソフトで、頼りなげだが、コトバははっきりしていて、空気に拡散されることがない。意外に届く声、それはコトバの力かもしれないが。
打ち上げで、北條くんが、角川春樹との交友(?)で驚くべき話を。吉野の角川春樹の別荘にVIP待遇で何度も呼ばれ、「いまからUFOを見に行こう」と出かけ、夜空に、ほんとうにUFOを目撃する話など、びっくりぎょうてん。店を閉めるために腰の浮きかかった広瀬くんも「これだけは聞いて帰らないと」と座り直したぐらい。北條くん、二枚目の外見をあっさり裏切る、底知れぬ怪優です。