白夜映画祭「ベッドとソファ」に感心しきり

okatake2009-07-22

日蝕か、二度寝しているうちに終っちまいました。先日の虹といい、みんなが空を見上げる日々がつづく。空の上には何があるかしらん。
われらが、映画評論家の杉浦かおりさんからSOSのメール。杉浦さんがセレクト、プロデュースしている、下高井戸シネマの白夜映画祭(http://www.shimotakaidocinema.com/)、レイトショーが苦戦中。なにとぞ、おいでくださいませ、と。ふだんは、ぼくの仕事のこととか、気づかって、こんなメールをもらったことがない。よっしゃあ、まかしときと、夜9時過ぎに下高井戸を目指し、部屋にこもる。ブックスジャパンの締め切りが迫り、坪内祐三『文庫玉手箱』文藝春秋と決めて、メモを取りながら読む。その合間に、週刊ブックレビュー用の大佛次郎『幻燈』をメモを取りながら読み、その合間に、となにがなんだかわからなくなってしまった。
こんなにやっても、下手すると去年の年収の半分だと妻に告げられ、本を出さないと、あるいは強力な連載が入らないと、ぼくらは沈んでいく。だけど、そんなにバンバン、書き下ろしで本なんて書けないよ。毎月のように出している人もいるが、どうなっているのか。高円寺でひとり下宿しているころは、年収250万あれば楽勝だったが。
夕食をたべて、あわてて重い空の下、下高井戸へ。初めてかもしれない、下高井戸も、下高井戸シネマも。杉浦さんに挨拶して、1912年の昆虫アニメ「カメラマンの復讐」(約10分)、1927年の「ベッドとソファ」(約71分)を見る。どちらもモノクロ、サイレントで、柳下美恵さんがピアノで伴奏をつける。このピアノ伴奏がなければ、まったくの無音状態で一時間半ほどを過ごさなくてはならなく、きつかったかもしれない。「ベッドとソファ」にはまったく感心した。モスクワに出てきた青年が、兵隊時代に友人だった建設会社の現場監督と再会し、うちに来いよ、と仲のいい夫婦の家に居候になる。そこで起こる三角関係を描いたドラマなのだが、冒頭のモスクワへ向かう汽車の、延々続くシーンの撮り方がまず非凡で、現実音がないことを忘れる。俯瞰からの街の撮り方、街路を走る電車、それに軽飛行機と、映像がシャープで律動感にあふれている。
夫婦の部屋が半地下になっているのだが、窓ぎわに佇む妻の向こうを、ガラス窓に人の行き交う足だけが影で映る。おそらくだが、トリュフォーの「日曜日が待ち遠しい」は、この「ベッドとソファ」からの引用ではないかしらん。男と女の設定が逆だが、部屋に閉じ込められるという設定も似ている。鏡に映る顔、レースのカーテン越しの顔、ガラス越しの顔など、女優の顔の撮り方もうまいなあ。
劇場を出て、ホームに滑り込んだ電車に飛び乗ると、さっき、下高井戸シネマで、コトバは交わさないが、ロビーで一緒にいた女性に声をかけられ、映画の感想を二言三言やりとりする。明大前で下車。今度は井の頭線ホームで電車を待っていると、今度は別の女性から「岡崎サーン」と。某誌の編集者の方だ。まだ一緒に仕事はしたことはないが、あることで御手紙をもらい、読書の腕前講座にも来てくださった。わずか5分ぐらいで、二人の女性から声をかけられた。こんなことがあるのも東京だ。
あかん、今夜は寝ます。