川本三郎「君、ありし頃」

okatake2009-02-27

今日、雪だった。目の前の公立高校が合格発表。あれは予備校だろうか、正門前に陣取って、パンフレットを渡す者たちの列。うちの家の門の前に立ちはだかることもあり、まったく近所への配慮がない。ありゃあ、禿鷹だ。
家を出るとき、雨かと思ったら、傘を叩く音が高く、硬く、みぞれのようであり、それが駅で電車を待つころには、はっきり白いものに変わってきた。
御茶ノ水の坂を下り、「紙魚の会」展を覗き、ちょこちょこと2500円ほど拾う。「コミガレ」に、なぜか筑摩叢書の深瀬基寛『エリオット』が三冊あり、三冊とも出た年数が違っていて、いちばん新しいのを買い、あとで見たら線引き、書き込みありだった。しまったなあ。こないだうちから、深瀬訳エリオットを捜していたので、その参考書にと思ったのだが。
サンデー毎日で仕事。魚雷くんが書評の原稿を持って訪ねてくる。ちょうど、担当者が電話中で、所在なくしている魚雷くんを見て「なんか、職員室で怒られてる高校生みたいやなあ」と言う。
サンデー終り、「ギンレイ」で一本見るか、「ささま」と西荻行脚と行くか、などと思って東西線に乗ると、急激に脱力し、そのまま帰宅。
ポプラ社から猪本典子『猫別れ』、岩波書店から青柳いづみこ『六本指のゴルトベルク』送られる。後者、「図書」でときどき読んでいたが、めっぽうおもしろい音楽+読書エッセイだった。『羊たちの沈黙』のレクター博士が六本指で、彼が聞く「ゴルトベルク」がどの盤かを推測し、その六本指による運指の考察などに、読書家と演奏家の幸福な結合を見る。これは楽しみながらちゃんと読もう。
ヨムヨム」をパラパラ開いていたら、内澤旬子さんが本棚のことを書いていて、読ませる。そのあと川本三郎さんの「君、ありし頃」というタイトルを見て、ハッとする。「家内、川本恵子は昨年、五十七歳で逝った」と副題。これは、昨年亡くなった奥さんの恵子さんへの追悼だ。しかも長文。川本さんは奥さんのことをめったに書かないので、へえ、そうだったのか、という話ばかり。病院で、意識を失った恵子さんに、それでも「最後まで耳がしっかりしている」と看護師に言われ、「三鷹に住んでいた頃、楽しかったね」と手をにぎりながら話しかけるところで、こっちもこみ上げてきた。いつも行く豆腐屋(川本さんは和食派)で「最近、奥さんを見ないけど」とおかみさんに言われ、「六月に亡くなりました」と応えると、びっくりし、「頭にかぶっていた手拭いをとって深々と頭を下げてくれた」という描写は映画みたいだ。そうか、日本人の所作に、そういうものがあったなと気づかされた。とにかく、この「君、ありし頃」は名文で、川本さんのことを好きな人は、ぜったい、ぜったいに読んでください。

古本界の間宮林蔵、古本屋ツアー・イン・ジャパン最新情報で知ったのだが、青梅線東中神」駅前くじらロード内に「中神書林」というCDなども扱う古本屋があるらしい。HPを見ると、金曜夜は、店内お酒持ち込みで、古本の話でもしよう、となっている。なんとも不思議な店だ。古本心がうずく。
http://www.tt.rim.or.jp/~nakagami/contents/infomation.htm