ボマルツォのどんぐり

okatake2008-04-16

今日は余計なことは書かない。ただ一つだけのことを書く。
ついに扉野良人の『ボマルツォのどんぐり』(晶文社)が出た。それ以外のことを書く気になれない。
なんとも好ましいたたずまいの装幀は空中線書局の間奈美子さん。ありがとう、奈美子さん。こんなに素敵な本にしてくださって。
って、べつにボクの本じゃないけど。まあ、そういう気持だ。
袖のプロフィールに、1971年生まれ、とある。そうか、扉野くんも、今年もう、37歳か。初めて会ったときは、20代の若者だった。ニコニコと目を細めて笑いながら、いきなりずどんとストライクを投げてくる。豪速球の存在だった。
書物雑誌『sumus』同人、と書いてくれている。『古本暮らし』(晶文社)の魚雷くんも、そうプロフィールにちゃんと入れていた。うれしい。
「すむーす」や「きゃびん」で読んだのも、たくさん入っているけど、未読のものも多い。楽しみ。まず表題作の「ボマルツォのどんぐり」を読む。外国みやげの消しゴムとどんぐりの話から始められた文章は、イタリアの田舎、森の中にあるマニエリスムの庭園ボマルツォへと運ばれる。澁澤さんの文章にひかれて、著者とパートナーのN(よっ、ナリちゃん!)がバスに揺られてこの怪異の森を訪ねる。町で出会った足の悪いおじいさんが、いい味を出していて、もちろんそのスケッチを扉野くんは怠らない。見るべきものを見て、それを透明な心が写していく。ほとんど完璧な文章は、最初っから扉野くんが文章の名人であることを感じさせる。
本と人と場所が、不可分に結びついていて、頭ではなく身体を運んで、扉野くんはそのいちいちを納得いくように確かめる。足取りがそのまま文章に流れ込んで、読む者の気持を鎮め、同時に高めてくれる。
おめでとう、扉野くん。もう石は池に飛び込んだのだから、これからは、ケチらず、どしどし書いて、どしどし本にしていってほしい。