芸人その世界

okatake2007-11-26

午前にビッグイシュー北村薫『空飛ぶ馬』についての紹介と、教養セミナーの古本コラムで、永六輔『芸人その世界』について書く。ぼくの芸人観に決定的な影響を与えた、芸人のエピソード集で、ひょっとしたら生涯の一冊と言えば、これを選ぶかもしれない。志ん生の息子の金原亭馬生。「私は大正に生まれたんだか、昭和に生まれたんだかわかりませんで、一度、生年月日、そして生まれた場所を、はっきりつきとめようと思うのですが、親父は『生れたんだからそれでいいじゃないか』ばっかりで」というような話ばかりを集める。
いつか、ぼくもこういう本を書いてみたい、という野望がある。これはどうだろう。実相寺昭雄ウルトラマンの東京』にあった話。ロケを仕切る、大島渚組のプロデューサー・山口卓治。「ロケ中、明日の天気は雨、などと予報が出ようものなら、『そこを何とかなりませんか!』と、気象台へ電話をした」。午後、社説をまとめる大物の仕事。くたびれる。
某県の読者から、思い出したように届く手紙があり、最初に手紙をもらった時、「零細で、心細く仕事をしているので、これからも応援ください」と返事に書いたことを、もちろん冗談なのだが、それが通じず、それから半年に一度くらい、しつこく手紙で、説教してくる。そんな気持ちではだめだ。情けない。もっと強い気持ちをもって、うんぬん。
ぼくの本を読む人で、冗談が通じない人がいるとは思わなかった。だって、冗談だらけの本だからな。困ったものだ。返事を書かないでいると、また説教してくる。おまけに某宗教の教典?を送ってきて、これを読め、という。根性を入れ替えろ、という。もう二冊送ってきた。かああああつとなる。これまで、どんな思いをして、この仕事をしながら戦ってきたか。おだやかに、もう二度と、手紙を送ってこないように返事を書いた。本当に情けなくなる。終日、厭な気持ちが去らない。99%はいい読者なのだ。いい読者に支えられている書き手であることは、日頃から、じゅうぶんわかっているが、あまりに情けない仕打ちに、奈落の底に落ちていくような気持ちを味わう。それでもやらなければならない仕事がある。擦り切れそうだ。