実景登場小説とは?

okatake2007-11-04

産經新聞」書評。赤瀬川原平『戦後腹べこ時代のシャッター音』岩波書店を書く。これはいい本だった。
『汽車』を取り上げた章。「汽車というのは人間が造った機械作品の中で、最高傑作だと思う」「逞しいエネルギーの象徴だった」「だからこの本のページをめくると、そこに見る鉄の重さや石炭の熱、蒸気の吹き出る勢いなどが蘇るのはもちろんのこと、食品添加物とか体脂肪とか,自分探しとか、そういうことにくよくよせずに生きていた時代の気分が懐かしい」「だから働く人も乗る人も、全員がその黒々とした機関車を崇拝していた。荒ぶる力を秘めた巨大獣の、「その逆鱗に触れないように、恐る恐る列車に乗り込んでいた」と名言が続く。ぜったい、ぼくなんかでは、こういった発想もレトリックも生み出せない、という意味で、赤瀬川さんを尊敬する。
「ヤマケイジョイ」。山行きは延期になっても、締め切りは延期じゃない。槇有恒『わたしの山旅』(岩波新書)について書く。まだスピンがついていた、カバーのない時代の岩波新書。スマートでかっこいい。
池袋外市へ行きたかったが、時間と元気がない。せめて、と中央線を散歩。荻窪「ささま」を振り出しに、西荻音羽館」、吉祥寺「ブ」とピンポイントで攻め、移動は徒歩で。2駅分歩く。いい散歩になった。それぞれでちょこちょこっと買ったが、!と思ったのが、音羽館で買った水上勉若狭湾の惨劇』(角川書店・昭和37年)。鉄道ミステリなのだが、なかに実景の風景写真がたくさん使われている。小説では珍しい。「旅」に「実景登場小説」という企画で連載されたものらしい。水上は難しかった、とあとがきで書いているが、アイデアとしてはおもしろい。一種の観光小説ですな。これから「彷書月刊」の原稿を書くつもりです。では、では。
あ、「オブラ」で担当してくれたフリーの編集者・大場さんが、佐高信内橋克人編『城山三郎命の旅』(講談社)という本を作りました。冒頭にカラーの口絵グラビア。茅ヶ崎の仕事場、主のいない椅子が、ベランダからの海の景色とともに映っている。ここに城山さんが座っている姿を見たのは、今年の初めの方だった。お目にかかれて、本当によかった、と改めて思う。