地獄から天国

この仕事をはじめてから、最大という失敗。今日、3時から新宿で小沢昭一さんインタビューがあったのだが、指定の喫茶店の名と場所を書いたファクスを挟んだ手帳を忘れてしまい、それに新宿で気づき茫然。あたふた、走りまわり、あちこち電話するが、どうにもならない。力尽きて帰宅。
帰りの車中で、いったい、小沢さんと事務所にどう詫びようかと、胸が真っ黒になる。小沢さんは九州公演中で、今日、この一日だけ不在者投票のため、東京へ戻ってこられたのだ。九州まで自腹で飛んで、詫びるしかないか、などあれこれ想定し、打ち消し、ただ沈んでゆく。国立に着いてあわてて降りたが、メガネをはずしていたことさえ忘れ、しばらくしてメガネを車中に忘れたことに気づく。それほど心と身体が遊離していた。最悪の事態を勝手にあれこれ想定し、自分がどうやって家まで戻ったかも記憶にない。
帰宅すると小沢さんからの「待っていますが、どうなっているんでしょうか」の留守電と、娘が書き留めたメモあり。メモの電話番号に連絡し、小沢さんにとにかく謝る。一瞬、何かうまい言い訳をと考えたが、やはり正直に、100%自分の愚かなミスであったことを告げる。「御迷惑でしょうが、とにかく、いまからお詫びにうかがいたい」と言うと、次の言葉に、モノクロ写真がさあーっと、カラーになった気がした。小沢さんは、「それじゃあ、夜にもう一度、お目にかかりましょう」とおっしゃってくださったのだ。考えられるもっともぼくに都合のいいかたちで解決した。
夜、新宿へ再び赴き、無事取材を終える。小沢さんは一言も皮肉も叱責もなく、にこやかに取材に応じてくださった。50分くらい話を聞いて「これでもうじゅうぶんです。ありがとうございました」と言うと、「まだ10分くらいなら、だいじょうぶですよ」と、それからまた15分くらい雑談をする。最後、直立不動で小沢さんに礼を言う。それでも足りないくらい、この日、ぼくは救われた。どこまで寛容になれるか。最近、逆の立場で、寛容になれない自分のことを思い出し、考えさせられた。
そのまま帰る気になれず、コクテイルに寄って、少し酔う。地獄から天国という一日だった。