あった、あった。

朝8時起床。あまりにいい天気で、高尾山にでもでかけるかと、思って用意を始めたが、大物の締めきりがあって断念。昨日、舞い込んでたまったゲラをチェック。それでもう疲れた。
昨日は、昼前に神田の中野晴行さんの事務所を訪れ、『酒井七馬伝』の取材を。ほとんど何もわからなかった、手塚治虫新宝島』の合作者を、ほとんど探偵のように、地道な調査でその生涯を洗い出してしまった。すごい本なのだ。大阪に対する愛情も感じられ、と思って、とんかつ屋「勝漫」で話を聞いたら、中野さん、世田谷区の生まれだって。小3で大阪へ行くのだ。この「勝漫」、すげえ人気店で、昼前に行ったのに満席で待たされ、そのあとも次々、客がひっきりなしに押し寄せる。「勝つ、漫画」と勝手に意味をとって、集英社の漫画編集者がよく訪れるそうだ。
このあとサンデー毎日でルーティンの仕事。5時からJITP事務局で打ち合わせ。読書アドバイザーの講座があり、そのテキストの文章と講師を頼まれる。河上進くんも頼まれたみたい。
6時からは「ぶらじる」で4月から、毎日新聞夕刊で始まる週一連載の打ち合わせ。「あった、あった。」というタイトルで、昭和に出て売れた本についてコラムを書く。
三省堂で、「週ダイ」文庫コラム用に、有田芳生『私の家は山の向こう テレサ・テン十年目の真実』文春文庫、鴨居羊子『わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい』ちくま文庫山本容子『マイ・ストーリー』新潮文庫の三冊を買う。テーマは女の物語だ。
荻窪「ささま」で、桶谷秀昭『天の河うつつの花』北冬舎、木村伊兵衛『対談・写真 この五十年』朝日新聞社を。『対談』は、あっ!と思って抱え込んだが、あとで見たら、蔵書印を押したらしい個所が二カ所切り取られている。ちゃんと「キリトリ」と表示もある。そうだろうな、これ、105円ってことはないよ。ぼくは裸本を持っているので、カバーだけいただいて、この本体は誰かにあげよう。あ、でもちょっと待って。裸本の本体を見つけてからの話しだよ。
桶谷の随筆集は、帰りの電車でざっと、とびとびに目を通したが、谷川雁のことを書いた「六十年代幻視的扇動者」という文章が目に焼きつく。六十年代、九州の炭鉱の労働争議を組織した谷川は、労働者と上京してくる。ソバ屋の二階でその谷川の話を聞く会があり、桶谷は出席する。
「話がはじまると、三人の労働者はつまらなそうな顔で居眠りをしていたが、その中のもっとも屈強そうな男が、やがて、高いびきをかいて横になり、境の襖を蹴倒して熟睡していた。谷川雁はちらっと横眼をいびき男の方へ走らせたが、平然として、さわやかな口調でしゃべりつづけた」(原文は旧かな)
西荻へも寄り、興居島屋でお澄坊とあれこれ喋る。ふちがみとふなとは、上京すると、澄ちゃんちに泊るのだが、そこでの美しいエピソードを。これは本人にきいとくれ。