霧雨の渋谷の坂の途中で

10日。天気予報では降らぬということであったが、昨日に続き、霧のような小雨にときおり見舞われる。
忘れないうちに書いておこう。今日は、横溝正史伴田良輔立川談志舟越桂と進んでいく。
まず、神保町。駿河台下交差点を渡っているとき、正面、三茶書房のレジにいる幡野さんと目が合う。どうもどうもと挨拶しに店内へ。「ちょっと、おもしろいものをお見せしましょう」と、二階へ。そこで見せてもらったのが、横溝正史邸から出た品々。ちょっとここには書けないのだが、江戸川乱歩がらみのすごいものがあれこれ。これから行く「サンデー毎日」にネタを持ち込み取材しようと思う。
サンデー毎日を終え、また神保町へ戻る。ブカキンでは永井龍男2冊、庄野潤三吉田健一竹村健一『おとなの英語』を買う。三省堂週刊ダイヤモンドのコラム用に文庫3冊。北村薫『秋の旅』文春、木山捷平長春五馬路』講談社文芸、夏目房之介漱石の孫』新潮を選ぶ。隠しテーマはこれから考える。
ここで、一歩も歩けなくなり、転がり落ちるように「ぶらじる」の地下階段を降り、ブレンドを注文すると15分ほど気を失ったように眠る。えらくうるさいなあ、と思ったら、隣りの席で、女性漫画家と担当者がネーム原稿を前に、丁々発止とやりあっている。「ええ、そこまで口を出すのか」と思われるほど、マンガの担当者のチェックが細かい。女性漫画家のキンキン声が頭に響く。
彷書月刊編集部へ行こうと、ひぐらしの前を通り過ぎようとすると、ひぐらしさんに声をかけられる。岡崎さんが通ったら声をかけてくれと、言われているんですよという。聞くと、伴田良輔さんが、ひぐらしの入っているビル(?)の階上に事務所を持っているらしい。以前、コクテイルのライブに来てくださって、人が多くて話ができなかったことをぼくも気にしていたし、伴田さんも気にかけてくださっていたらしい。
伴田さんは、書くものからしたら、高踏的な趣味人を連想するが、とても気さくな人だった。前は小さな出版社が入っていたというワンルームはすべて白塗りで、部屋の真ん中に鉄の柱があったり、ちょっとパリの裏町のアパルトマンみたい。わずか30分ほどだったが、伴田さんとあれこれ話せて本当によかった。いい時間だった。最後に岡崎京子からもらったというマンガの原画を見せてもらったが、これが素晴らしい。
彷書月刊でちょっとおしゃべりして、渋谷へ。今夜、NHkふれあいホールで、ラジオ「新・話の泉」の公開録音があるのだ。その入場券をさる人からもらった。ジジババの佃煮みたいななかに混じって席に坐ったのだが、壇上に並ぶメンツがすごいよ。立川談志毒蝮三太夫山本容子嵐山光三郎山藤章二松尾貴史ときた。どうです、直視すると目がつぶれそうな豪華な顔ぶれじゃないか。これ、書き出すと長くなるのだが、松尾貴史が落語にくわしいのに驚く。談志と毒蝮のかけあいがいい。司会は渡邊あゆみ
終わったのが9時過ぎで、夜の渋谷を駅めざして坂を下って、パルコ前にさしかかったとき、ぱっと目の前に舟越桂が人と歩いているのを見る。立ち止まって「あっ」と、小さな声を挙げると、「ああ、わかった?」という感じで連れの人がこっちを見る。舟越さんが「上海ビエンナーレが……」と話している声が通過していく。車中の読書はシムノン『片道切符』集英社文庫
国立に着いたが、小雨。自転車を駐輪場に置き去りにしてタクシーで帰る。山王書房夫人から、ていねいなお礼の手紙が来ていた。