手が触れるとものが壊れる乱す王

息をつめた綱渡りの厳しい日がつづく。あれこれ一挙に飛びかかってきたプレッシャーからか、このごろ変な時間に目がさめるくせがついた。今朝なんか、3時半に目覚めて、そのまま眠れなくなった。手嶋龍一『ウルトラ・ダラー』を読む。おもしろい。意外だった。あのふくわらいを失敗したような、元NHkワシントン局長の彼が、こんな手だれな小説を書くなんて。
サンデー毎日に出向き、ルーティンの仕事。また著者インタビューの仕事入る。もう泥沼だ。
午後雨やんで、タテキン無料箱あさっていると、『いりふねパリガイド』草思社という青い本が目に入る。裏の帯をみると、堀内誠一の名が。パリで発行された日本語新聞「いりふね」を堀内誠一が作っていた。これはそれをまとめた本。なかを見ると、きゃー、かっこいい! あたふたと小脇に抱え込む。おかげで買ったばかりのペットボトルのお茶を忘れてきた。古本の力ってすごいよねえ。
このあと「彷書月刊」編集部に寄り、特集号についてあれこれ。アルバムのキャプションなどを書く。大学時代の友人の原稿がまだ入らない。たのむよ、まったく。
昨夜、車を車庫だしするとき、壁にぶつけて大きな傷をつけてしまう。同日にデジカメは壊してしまうし、ぼくが手を触れるものは、機械はなんでも壊れる。時計、テープレコーダ、ウォークマンの類、万年筆で、使えないのがいったいいくつあるか。ミダス王ならぬ乱す王だ。携帯電話もいやいや持っているが、どうも機械を軽蔑しているのではないか。それで扱いがぞんざいになる。昭和30年代ぐらいのレベルがちょうどよかったんだ。ぼくにとっては。
あんまり次々と壊すので、家内がやんわり苦情を言うが、「言わんといてくれ、わかってる。好きでやってるんやないんや。こうなってしまうんや。頼む」と泣き声を出す。ソファに沈みこんで、しばらく放心。
憂鬱が首筋までたれ込めて、息をするのもたえだえだ。酒量も増え、とにかく眠ることに専念すべし。明日は臨時のTBSだ。原民喜『夏の花・心願の国』が身にしみる。