これはもうお昼はトンカツだ、の巻

9日は東京古書会館即売展が書窓会。あの、あきつやみはるや克が出品するから、ほんとは初日に行きたかったがあれこれ重なってダメだった。大阪毎日放送から電話があり、吉本の「きりん」という若手お笑いが、国会図書館を探訪するのだが、マンガぐらいしかわからない。そこで、ぼくに随行してあれこれ教えてやってくれ、という。そこまではいいのだが、マンガの古書価をその場で、これはいくら、と言ってほしいという。国会図書館まで行ってマンガかいな。それは専門の古書店主のほうがいい。ぼくができるとしたら、「ほら、ここにこんな本があるで、めちゃくちゃ珍しい本や」などとコメントするぐらい。値段にこだわるなら、専門の古書店主を紹介する、と言う。そしたら、ちょっと相談して、また明日、同じ時間に電話しますのでよろしくお願いします、と電話を切り、翌日、つまり10日、昨日、午前中待機していたが、電話はなし。誰かほかに決まったのだろう。しかし、失礼なやっちゃ。
10日、坪内・福田『暴論』を、積ん読だったのをぱらぱら拾い読みしていたら、やたらトンカツを食っている。ちょうどテレビで、途中下車の旅をしていて、そこでも車だん吉が、うまそうなトンカツ(焼きカツという)を食ってる。これはもう昼はトンカツだ、と心に秘かに誓って午後家を出る。国立駅前の、トンカツ屋で700円のトンカツを食う。ここは一ツ橋生御用達の店で、ランチはなんと400円。しかも11時から夜の11時までがランチタイム。なんやそれ! トンカツは肉が薄いが、からっと揚がってまあまあの味だ。
このあと、書窓会、そして高円寺古書会館、コクテイルと回る。買った本は、
書窓会では古垣鐵郎『ジュネーヴ特急』朝日新聞社/昭和8年が300円。昭和8年「現代」付録『現代日本に活躍する人物とその団体』が200円。能登尚平の横長マンガ『ブンガワン・ソロ』300円。それに、これは一番の買物、亀山厳『裸体について』作家社/昭和26年が800円。亀山は名古屋モダニズムの重要人物でジャーナリスト。エロ研究の本なれど、いきなり古本屋の話が出てくる。初日だと軽く4、5000円くらい買ってしまうので、これぐらいでちょうどいいのだ。
高円寺では5册。野々上慶一『思い出の小林秀雄』新潮社が500円であったので買ったが、あとで読むと、ほとんどこれまで著者の著作に書いた小林についての文章の採録。それより北原武夫『体当たり女性論』(中央公論社)が、黒一色を使った函入りで、目を引いた。装幀者を見ると中林洋子だ。あわてて抱え込む。350円。
都丸の均一で、思潮社現代日本詩集(真鍋博/装)シリーズ、村野四郎『蒼白な紀行』を発見。ついさっき、電車のなかで書評用に小池昌代『黒雲の下で卵をあたためる』岩波書店を読んでいて、卓抜な村野四郎「鹿」評を読んでいたところだったのだ。森のはずれで、額を銃で狙われた鹿を捉えた名品。そうか、村野四郎か、とインプットしたところへ、目の前に村野四郎だ。500円。これは喫茶店ですぐ読んだがいい詩集だ。
巻頭「日常の犬」はこんな詩だ。

 その顔を よく見ていると/顔というものではないように思われてくる/主とよばれる不確かなものを/
ぼんやり反応して/やつと没落にたえているような形象/顔でもなければ 尻尾でもない
 ――それなら あれに牛乳をのませて育てた/私たちの家族とは/どういうものなのか
 あれが 向うをむいて歩み去るときは/いまにも永遠の中へ消えそうに見える/そして ふいに立ちどまつて/こちらの方を振りむくとき/私たちの家族の心臓は 真青になる/それはもう まつたく犬ではないから

立ちのみ古本実施中のコクテイルに顔を出すと、「ぐるり」の五十嵐くん、そしてなんと僕が命名した古本版おぎやはぎのコンビがいる。店内でさっそく二人で古本コントの練習をしていたから、そのうち「エンタの神様」でデビューするだろう。古本屋のバイト店番と古本屋が何かを知らずに入った変な女性客という設定だ。小梅太夫の前にしなさいよ、インパクト強すぎるから。
狩野くんから23日のイベント、すでに20名くらい予約が入っているという。じゃあ、いまと同じく、椅子をとっぱらって、立ちのみでいこうときめる。そういうわけで、当日、立ち見となります。あちこち歩き回ってから来ると疲れますよ。じゅうぶん休養を取っておでかけください。
国立「ブ」でも10冊程買ったがそれは割愛。ディスクユニオンで、スタン・ゲッツがヴァ−ブで録音した音源の2枚組編集もの、フィル・ウッズが4本のアルトで饗宴したプレステッジ『FOUR ALTOS』を買う。財布がすっからかんになってしまった。