阿佐ヶ谷「風船舎」は歳末に生まれたお花畑だ

昨日、書き忘れたのだが、2日和洋会で、古本海ねこさんと会場でばったり会った。海ねこさん、心配そうな顔をして近づいてきて、ぼくの患部に手を当てて治療するような、やさしい言葉をかけてくださった。この手当は沁みた。ありがとう。うれしくなって、いま買った本を見せて「これはこう、あれはどう」と解説してしまう。金子さんと一緒にまた、どこかで会おうね、と約束して別れる。
3日は東京都写真美術館へ。浪華写真倶楽部「浪」展を見る。チケットに「日本最古の写真団体」とある。あの安井仲治も大正11年に入会している。この展覧会に、大阪で教師をしていたころ、同じ国語科の同僚で、いまは大阪で編集ライターをしているSさんが参加している、というので、見に行った。顔を合すのはもう7、8年ぶりぐらいか。彼女の案内で会場を回る。安井仲雄、という方の出品があったので「これは、安井仲治の?」と聞くと、「息子さんです。岡崎さん、よく御存じですね」と驚かれる。おっちゃんは何でもよう知っとんのや。ロッシャはえらい国やった。
夜、「コクテイル」で飲むこと約束して会場をあとに。
今日は、ささま、西部古書会館、都丸、それに阿佐ヶ谷にできたばかり、ほやほやの「風船舎」を訪ねる。ささまで、例によってがさごそと均一を漁っていたら、野村くんに「岡崎さん、阿佐ヶ谷にできたばかりの古本屋がありますよ。岡崎さん好みの店ですよ」と教えられる。それで、さっそく夕方、行ってみたのだ。
住所は阿佐ヶ谷南2・17・2 電話は03・5306・4045
阿佐ヶ谷南口を出て、パール商店街の方へ、商店街へは入らず、高架沿いの道を高円寺方面へ戻る。ものの数分で、左手に店がある。けっこう広めのゆったりした感じ。フローリング、Jマートの本棚、と高円寺の十五時の犬、アジアンドッグと同じ血縁を感じる。入ってすぐ、ものの数秒で、「いやあ、これはまあ、なんとも見事によくこれだけ集めたもんだ」と思う。入り口脇のスペースに暮しの手帖佐野繁次郎装幀本が並ぶ。あの『風に吹かれて』もパラフィンがまかれ、表紙を見せて立て掛けてあった。ううむ。続く児童書の棚も、子供向けではなく、デザイン志向の大人向けのチョイス。しかも値付けは、マニア上がりの辛いラインではなく、客側の視線でうまくつけてある。例えば、柳原良平表紙の角川文庫、遠藤周作『おバカさん』が200円。これなら、買える。かなりの量の本があるが、すべていま人気の売れ筋を上澄みだけ掬ったような本棚で、まだあまり客の手が入っていなくて、「時をかける少女」時代の原田知世のごとき、神聖なる清純さを保っている。
声には出さねど「うーん、うーん」とうなりながら、未所持でぜひ欲しいが、たいてい定価以上ついてるため二の足を踏んでいた尾崎秀樹『さしえの50年』平凡社を開店の御祝儀の気持ちもこめ2500円で買う。「よく、これだけ揃えたなあ」と男性の若い店主に声をかけると「あのう、岡崎さんでしょうか」と返ってきた。店を入ったとき、そうか、と思ったが、彼は何週間か前に、ささまの店頭でカップルでいたうちの男性だと気づく。ぼくが手をかけて買わなかった数冊を、手に抱えていたし、そのほか、チョイスが真芯を捉えていて、これはふつうの客じゃねえな、と思っていたのだ。そのときも、彼はぼくのことを気づいていたようだ。
店内にちょうど『文庫本雑学ノート』の1と2(どちらも絶版)、『本屋になりたい!』があったので、サインとイラストを入れる。これも御祝儀だ。聞くと、始めたのは11月29日。かつて「象の足」で店員をやっていたそうだ。この店は夫婦で始めた。ぼくの前に本を買った若い客も初めてだったらしく「店はいつから、営業時間は、休みは」と取材のように聞いていた。自分好みの古本屋にぶちあたって、興奮していたのだろう。とにかく、いまどういう古本が注目されているか、「風船舎」をひとわたり見ると、わかる。カタログのような店だ。値は抑えてあるので、あっというまに花畑は散らされるだろう。そうなると補充が大変だ。すぐ補充がきくような品揃えじゃないしな。しかし、若さと探究心と本好きという愛情でなんとかなるだろう。年内無休で夜は12時近くまで開けているようなので、ぜひお出かけください。
って、ここまで書いたら疲れてしまった。
あ、そうだ。コクテイルで12月9から11日、「立ち飲みと、古本の夕焼け市」というイベントが開かれます。9日が魚雷くんと海治さんが聞き手になって「息子山口正介が語る父山口瞳」、10・11がナンダロウさんのブログで紹介済みの「立ち飲みと古本即売会」。両日とも素敵なゲストによるライブがある。ぼくもどれかに参加しようと思っている。ぼくの「2005年、古本ベスト30」は23日7時から。すでに、セレクトし始めています。席数少ないので御予約を。電話は03・3310・8130 メールでの予約は「古本酒場コクテイル」のHpからアクセスしてください。よろしく。
あ、これは書いておかねば。蟲文庫さんから郵送で『たくさんのふしぎ ここにも、こけが…』が手紙入りで送られる。ぼくがこの日記で『変型菌な人びと』を買ったと書いたのを読み、姉妹編として送ってくれたのだ。同著をぼくは「これでじゅうぶん」と書いたが、蟲文庫さんによれば「これ以上もなかなかない」という本で、同店ですでに100冊以上売っている人気商品だそうだ。手紙とともに、これは宝物にします。なお、ささまの店頭にはいま、この「たくさんのふしぎ」が大量に105円で出ています。ぼくも数冊買った。蟲文庫さんは『ノラネコの研究』が、元祖「私は猫ストーカー」ともいうべき、おすすめ本という。