砂だけがあればよかつた

あれこれ思い倦ねるうちに日付けが変わった。すべてこともなし。ただ漂えるがごとし、だ。
もう昨日になるのか、散歩で立寄った一ツ橋「ブ」で、水野英子『ファイア−!』の1、2を見つける。懐かしいなあ。日本初のロックミュージカル漫画ともいうべきで、画期的な作品だった。画面から音が聞こえる、ような気がする作品だ。吉田秋生カルフォルニア物語』を読んだとき、これはより文学的な『ファイア−!』だな、と思ったものだった。
セドラーズ御一行が通りすぎたあとの「いとう立川羽衣店」へ行く。これも昨日の話だ。すると、若い女店員がしくしく泣いている。どうしたの、と聞くと、「セドラーズ」と白抜きした黒いジャンパーの男女が入ってきて、棚という棚からいい本をつむじ風のように、抜いていって、これでは明日からどうして商売していいのか途方に暮れているという。
まあ、そんな冗談を言って、空元気をつけておいて、一階文庫売場に、保育社カラーブックスが、全揃いかと思われるほど大量入荷していた。いつも、ぼくが行くと声をかけてくる女性店員に、「これがいま人気、なかでも高いのは『珍本古書』」と説明して、目で追うと、あれっ!あった。200円。『寄席』もいただき、200円。保カラをお探しの多摩地区在住の方はどうぞ。戸田学編『いとしこいしの漫才』も半額以下の1100円であった。これもいただきだ。他諸々。
ほとんど古本屋の棚の前にいるときだけ、水圧が上がって、本当の自分でいられるようだ。あとは、まったくダメ。ほんと。この泥沼をいかにして抜け出すか、だ。
高野喜久雄「あなたに」より
何も無い/ただ 砂だけじやないの/と あなたはおつしやる/
考える心の 極北に/しかし わたしはいつでも/砂だけがあればよかつた/
あくまで それを啄む鳥であればよかつた
向井くんから「未来」ほか、あちこちから御本いただきました。ありがとうございます。