ちくわ文庫、ってなに?

本棚をあれこれ整理していたら、あっというまに半日が過ぎる。「TILL」という詩雑誌が見つかった。1983年、新風舎刊。そう、あのいまや飛ぶ鳥を落とす勢いの出版社だ。住所を見ると、立川市羽衣町2・50・4になっている。「いとう羽衣店」のすぐ近くではないか。20年前はあそこにあったんだ。その後、国分寺の商店街にあるビルに入っていた時代のことは、あのあたりをうろついていたのでよく覚えている。当時19歳(!)だった編集発行人の松崎義行くんの詩も掲載されていて、なぜかそこにサインペンでサインが入っている。「鳩よ!」編集長石関さんのインタビュー、荒川洋治さんのエッセイもある。現代詩が元気だった時代だ。というわけで、古い「鳩よ!」を引っ張り出したり、本の整理をし始めるのはあぶない。自分の好きな本ばかり見つかるんだものな。あたりまえだけど。
昨日、ディスクユニオンで買ったCD、ビル・エヴァンスジム・ホールのデュオ「Intermodulation」を一日聞く。「アンダーカレント」のコンビですね。雨の日に聞くと、不思議に合う。昔はしょちゅうジャズの雑誌やカタログを読んでたから、データがばっちり入っていたが、いまは非常に穏便な聴き方。
午後、退屈している娘を車に乗せて、東大和「ブ」へ散歩。開店してまもないため、かっこうの草刈り場になっているのか、文庫でいうと、ちくま、中公、講談社文芸などが極端に少ない。村上春樹ノルウェイの森』単行本が上下三冊づつあったので、ひと組買おうと手を伸ばしたが、どうしても買えない。バカだなあ、意識してるんだ。つまり、ちょっと恥ずかしいんだな。あいつ、いまごろ、ノルウェイの森なんか読んでんだ、なんて。誰も思うわけないだろ。でも、あの赤と緑は目立つんだよな。竹西寛子『時のかたみ』新潮社、吉見俊哉『都市のドラマツルギー』弘文堂、いがらしみきおの日記『ワタシ』白泉社などを買う。
夕食は、自家製のお好み焼き。ちくわを入れるのを忘れ、そのことを指摘すると、娘がすかさず「ちくわ文庫」という。妻が「なに、それ?」と聞く。どうも「ちくま文庫」の洒落らしい。父親の本がちくま文庫から出ていることを知っている。しかも、自分のことが書いてある。だから、ちくま文庫のひいきなのだ。  
浅見淵『昭和文壇側面史』再読だが、なかなか読みはじめるとやめられない。途中からノートを取りながら読む。太宰治『晩年』は檀一雄の強い推挙「タイトルが晩年だから死ねば売れる」により、砂子屋書房から出る。しかし、500部刷って、半分しか売れなかった。砂子屋書房は苦境にたつが、尾崎一雄『暢気眼鏡』が芥川賞を取り、すぐ売り切れ、普及版を出したり、これで息をつく。ネット検索したら、『暢気眼鏡』は限定2部という版を含め、4種類、同出版社から出ている。「石狩川」の本庄陸男は、秀才校で有名だった誠之小学校の訓導をつとめ、人気の高い先生だった。のち希望して、特殊小学校へ移る。結核で倒れ、入院。誠之小学校から本庄の教え子、三十数人が東大へ入るが、その三十数人が本庄の病床に見舞いに来て言ったセリフが泣かせる。これが、ほんとに泣かせるんだなあ。書かないから、ぜひ、これは直接あたっていただきたい。