雨に閉じ込められて

一日中、雨。部屋にとじこめられて、あれこれ思案する。串田孫一さんが亡くなった。89歳、老衰。せめて、もう少し長生きを……などと思わない。丸く円が閉じるような死だ。これ以上望むべくもない終り方ではないか。家族の方は別な思いがあるだろうが。串田さんの書くものはブレがなく、昔から、ほとんど変わりがない。いや、それほど深く読み込んでいるわけではないが、山のエッセイにしても、つねに天上の言葉で書かれている気がした。若いときは、ぼくはそれが不満で遠ざけていた。40過ぎて、近くの低山を散策するようになって、ようやく串田さんの文章がいいと思えるようになってきたのだ。小金井の線路際に住んでいらっしゃることは、エッセイ等で見当がついていたが、朝日の死亡記事の住所を見ると、ああ、あそこねとだいたい見当がつく場所だ。武蔵小金井駅を利用していたとき、ときどきうろついた辺りだ。たとえ、一つでも二つでもエッセイを読もう。ちょうど「エン・タクシー」の亀坪対談で、亀和田さんが、串田孫一が書いた、車窓からライオンを飼っている部屋が見える、というエッセイの話をしているが、ぼくもそのエッセイは印象的でよく覚えている。さて、なにに入っていたか。
国立「ブ」で、永島慎二漫画家残酷物語1』ふゅーじょんぷろだくとを550円で買う。ぼくは同作をいくつかのバージョンで持っているが、それらは、貸本漫画によくある「トレース」版で、この本は、発見された原稿から起こしたという点に注目だ。ほか、上田哲農『山とある日』三笠書房105円など。
夜、CSで、これももう何度見たか、市川崑犬神家の一族』を見る。市川崑以外では、とてもこのような映像にはならなかったろう。傑作だと思った。加藤武三木のり平岸田今日子など、いやらしいほどうまいねえ。
実業之日本社から三冊、ほか新刊が届く。本を整理していて、長田弘『読書のデモクラシー』をぱらぱら再読していたのだが、30歳で死んだラリサ・ライスナーのルポ「バリケードに立つハンブルク」のところに線が引いてあった。最初に読んだときは、これだけでは調べようがなかったのだが、いまはパソコンで検索できる。平凡社から91年に出た『ヨーロッパ革命の前線から』に収録されていることがわかる。ドイツ革命を望み、蜂起の勝利を信じ、死んでいった女性。パステルナークは彼女を追悼して「われわれが手の込んだ破滅によって育てられていたとき、きれいごとの世界から遠く離れたところに立っていたのはあなただけだ」と書いた。