夜明けは私たちを裏切るようにしてやって来た

それにしても暑いねえ。わが地下室は、ふだんでも階上より2、3度は低いかと思われるほどひんやりしているが、さすがに今日は一日中冷房を入れた。午前中、TBS用放送原稿を書く。『団地っ子の同窓会』東邦出版という本をとりあげる。団地で幼少期を送った人は、みな共通した体験を持っていて、それが独自の感性をつくりあげる。住んだ団地は違っても、あった、あったと盛り上がられるのだ。給水塔、共同駐車場、児童館、集会所、バザー、暗い階段に切れかけた蛍光灯など。ぼくも一年間だけだが、大阪の淀川近くの団地(社宅)に住んだことがある。棟の近くに大きな広場があり、そこで自転車の練習をした。敷地中央にシュロの木、噴水のある広場があり、テニスコート共同浴場もあった。裏門から出てすぐの、たこやき屋へ、よくたこやきを買いに行ったなあ。新聞紙とソースの匂いをなぜか思いだす。
昼食後、ひとりで、先日オープンした東大和「ブ」へ偵察。オープン時にどっと買い取った本が出ていやしないかと思ったのだが、あてがはずれた。常盤新平『フランス風にさようなら』旺文社文庫堀田善衛(ほんとは正字)『美(うるわ)しきもの見し人は』新潮文庫(ぼくがもっともよくわかった美術論集だ)、広瀬正『タイムマシンのつくり方』集英社文庫を拾う。
ついでに砂川「ブ」へまわって、是枝裕和『小説 ワンダフルライフ』ハヤカワ文庫、ドレラム『ビールの最初の一口』早川、さえきあすか『ガラクタをちゃぶ台にのせて』晶文社を買う。
「ドゥ・サムシング」の編集者Fさんから、次の号の本出しを、と言われる。同テーマで三冊。落語でいくか、『星の王子さま』でいくか。書肆アクセスの畠中さんからフェアの依頼。同店で販売する地方・小出版の本から20点選んで展示、ぼくの本も置いてくれるという。よろこんで即、承諾。あの畠中さんから頼まれて、迷ったり、断ったりできる人、いるだろうか。
ものすごく読みたくて、読めないでいたプリーモ・レーヴィアウシュヴィッツは終らない』朝日選書を、やっと読み始め、半分ほど進んだ。レーヴィについては、当日誌で過去に書いている。ユダヤ系イタリア人、1944年からアウュヴィッツに流刑。収容所内での不可避的抹殺を逃れた体験を克明にえがく。
「夜明けは私たちを裏切るようにしてやって来た」
簡潔で象徴性ゆたかな文章だ。
パンのひとかけらを愛おしむ、生存最低ぎりぎりの日々で、つねに身体をふき、背筋を伸ばして歩く男がいる。「生き続けるため、死の意志に屈しないためだ」と男はいう。レーヴィはそれに感心しながら、従うことはできない。混乱している、と書く。その誠実さ。