永六輔『芸人その世界』岩波現代文庫に

昨夜、遅くに山本善行に電話。ときどき、深夜に電話をかけ、情報交換をしている。さいきん、山本のテリトリーである三条「ブ」で不思議な客を見たという。肩の上にネコを乗せている男性がいた、というのだ。「オレが喋ったら、話し、つくってると言われるけど、これほんま」と念を押す。首輪を付けたネコを、肩の上に乗せて、「ブ」で本を選んでいる。「これ、反則やろ」と善行。「なにやってもええんか、ちゅう話しになるやろ」。ふむ。「もう、扉野くんは袈裟着て、ブに来るし、三条のブは大変や」という。それに毎日、105円の本だけを漁る男もいるしな、とつけ加えておいた。みなさん、京都へ行ったら、平安神宮清水寺より、まず三条「ブ」に行きなはれ。なにかが起りまっせ。
昨日、産経新聞から書評の依頼があったのだが、猪谷さんという女性で、あれこれ情報を交わすと、なんと密偵おまささんの友人だという。生田さんの話をすると、生田さんは歌舞伎、演芸の担当になったという。ぴったしの起用じゃのう。生田誠さんには、落語に関する著作があるのだ。
本日は、ほとんど家にいた。わが家の新メンバー「マシロ」ともずいぶん遊んだ。ほんとうは締めきりが2本、そのほか、やらねばならぬことが山積しているのに、リビングのソファで、腹の上にネコを乗せて遊んでいると、娘が生まれてまもないころのことを思いだす。
林哲夫さんが、スムースのHPで、島尾敏雄文庫リストの改訂版を作ってくれている。これ、便利。しかし、今日は『死の棘日記』を読む気分ではない。けっきょく、夜7時からのUBCの打上げもパス。仕事だ、仕事。
とはいいながら、BSで『ルル・オン・ザ・ブリッジ』を見てしまう。ポール・オースター監督、ハーヴェイ・カイテル主演。昨夜に引き続き、ポール・オースター。しかし、どうだろ。おもしろくないことはないが、思わせぶりなポーズが眼につき、最後のオチで、ああ、そういうことね、と思ってしまった。『スモーク』のほうが好みではある。
安岡章太郎『対談 僕の昭和史』の井伏鱒二対談で、安岡が「昭和初期の時代の暗さというかな、あれは戦争中の暗さとまた違う、そういうものを一番端的に教えてくれるのは左翼文学じゃなくて、先生のナンセンス文学の時代のもの」と語っている。ここでは「仕事部屋」「鯉」「山椒魚」などを含めての話。すると、井伏が「どうもね、『ナンセンス三枚お願いします』と手紙で言われるといやで。」と返している。「ナンセンス三枚」という原稿の注文はやはり困ったろう。
岩波書店から、永六輔『芸人その世界』岩波現代文庫が届く。これでわかった。やはり永さんから礼状が届いたのは、ぼくが『古本生活読本』のなかで、『芸人その世界』について書いたことについての礼状だったのだ。それを永さんに伝えたのは誰か。「森本毅郎スタンバイ」の遠藤泰子さんだろうか。岩波現代文庫版は本文に精興社活字の写植を使っている。精興社の文字で、『芸人その世界』を読む日が来るとは。先日のセドリツアーのとき、どこかの古本屋で、この『その世界』シリーズを何冊か見つけ、向井くんと岡島くんに、「これは名著なんやけど、とにかく数がたくさん出てるから、あんまり高くついていない。けど、和田誠のイラストを含め、ぜったい買っとかなあかん本や」と喋ったばかりだ。
ぼくの芸人観、というのはこのシリーズで作られたようなものだ。戸板康二の著作ほか、参考文献一覧もやくにたつ。あとで有名な話だと知るが、最初に読んだ高校時代、こんな話に笑った。
 鈴々舎馬風が刑務所の慰問に出かけて囚人の前での第一声「エー、満場の悪人諸君!」
 カメラを買ったばかりで嬉しくてしょうが無い松葉家奴。知り合いの葬式にもカメラをぶらさげて出かけ、遺族に向ってカメラを構え「ハイ、ニッコリ笑って下さい!」
 これなど、寅さんの映画に引用されている。