豊島園で古本屋に

豊島園にあるシネマコンプレックスの割引券があり、その有効期限が残り少ないというので、妻とわざわざ映画を観にいく。豊島園へわが最寄り駅国立から行くにはいくつか方法があるが、中央線で東中野都営大江戸線で豊島園、というルートを取る。着いたら、上映時間がバラバラで、一時間以上時間をつぶさねばならない。妻には申し訳ないが、ここでもうぼくは少し不機嫌になる。それなら練馬で降りて、「ブ」で時間をつぶす手があった。まだ時間は11時。いちばん早い映画は「コンスタンティン」という、キアヌ・リーブス主演のバカっぽい映画。可哀想だから言わないが、いくら1800円の映画が800円になるからって、往復で1000円近い電車賃使って、わざわざ観にくるほどのものかと思ってしまう。ほんとうに妻には申し訳なく思うのだ。こんなぼくで。
豊島園駅前で11時過ぎから昼食を取り、ぼくは少しぶらついてくると、開演時間まで少しうろつく。「ミス古書」を持ってくればよかったが、出てくるとき見つからなかった。しかし、すぐに「水野書店」という古本屋を見つける。しかし、入り口から通路は積み上げれた映画パンフが圧し、それでなくても狭い通路に、イスを置いて店主が陣取っている。開店まぎわで準備中らしい。あきらめて先へ。そこでまたすぐ、本、CD、ゲームと書いた看板を見つける。これは新古書店。店の前で様子をうかがっていると、向こうから歩いている人に声をかけられる。光文社の編集者鈴木さんだ。大西巨人の『神聖喜劇』の担当者。間村さん、林さんといっしょに何度か御会いしている。やあやあ、こんなところでと少し立ち話。それじゃあと手を振り、中へ入ると、3冊100円などというやる気のない単行本の棚がある。半分はマンガやCD、ゲームソフト。あまり期待しないで巡る。しかし文庫は安いぞ。横光利一『愛の挨拶ほか』講談社文芸文庫が210円だからね。野坂昭如野坂昭如雑文の目2』ケイブンシャ文庫、山田洋次『真二つ』新潮文庫がともに105円。
恥ずかしいことを書くが、シネコンはぼくはこの日が初体験。椅子と音がいいねえ。「コンスタンティン」は、CG使いまくりのアホ映画。まあ、退屈はせんかったけんど、バカバカしいや。このあと、椎名町熊谷守一美術館」へ。住宅街のなかにある、こじんまりとした個人美術館。作品点数が少ないのが物足りないが、しかし、雰囲気はよかった。半地下の喫茶スペースで珈琲を飲み、展示即売している陶器作品のなかから、可愛い小鉢を買う。帰り、雨の住宅街を歩くうち、なんだか引越したくなってくる。この椎名町へ、という意味ではなく、新しい町に住んでみたい気持ちに誘われるのだ。これも長い間、独り暮しをして、あちこち転々と住居を代えた名残りだろう。
昔、この町へも古本屋巡りに来たことがある。そのことを身体が思いだし、「春近書房」にたどりつく。当然、入る。ここは品揃えがいい。見飽きない棚で、よくセレクトされていて堪能した。値段はきっちりついていて(高い、という意味ではない)、なにも買えないで店を出ることになるかな、と考えていると、入り口附近の床に、100円均一の小さな箱が置かれてある。これです、これです。すぐに古井由吉『招魂のささやき』(福武書店)と、堀江敏幸ゼラニウム』を拾う。行帰りの電車内で鴨下信一『面白すぎる日記たち』文春新書を読む。これは、ほんとうに「面白すぎる」日記についての本だったなあ。