1957年のもう一人の岡崎武志

昨日、スムースの扉野くんから封書とどく。扉野くん発行者の飛兎出版『高祖保詩集 禽のゐる五分間冩生』と、手紙とコピー。ユリイカ発行の川崎洋の詩劇集『魚と走る時』に、「ギターにまじつた馬のなき声の話」という作品があるが、たぶんラジオ劇で、その主役の少年を演じた俳優が岡崎武志という。しかも上演されたのが一九五七年。ぼくの生まれた年だ。ぼくと同姓同名の俳優が、ぼくの生まれた年にラジオ劇に出ていた。おどろき、おどろき。その奇縁をおもしろがって、わざわざ扉野くんがコピーを送ってくれたのだった。あんがとさん。
1957年のもう一人の岡崎武志は、劇のなかでこんなことを言ってます。
「姉さん不思議じゃない?(中略)このお魚、そのリンゴ、今飲んだミルク、此処にこうして僕が居ること。其処にそうして姉さんが居ること」
おセンチな「僕」であります。
本日未明、ドスンと衝撃あり。地震。すぐ飛び起き、テレビをつけたら、しばらくしてテロップ。震度3以上の地域として多摩東部があった。娘も起きてきて階下でばったり出会う。「ふー、すごくすごく揺れたよ。ガガーって」と娘。「もう大丈夫だから、安心してまた寝なさい」とぼくがいう。ぼくはしばらく寝付かれず、伊吹和子『われよりほかに(上)』を読む。著者24歳のとき、谷崎訳源氏の口述筆記者となる。ひきつづき中央公論の編集者となり……なんてことは、この親本が出たとき、ずいぶん話題になったから衆知のことだ。しかしなんという鮮明な記憶力か。
谷崎家で飼われていた二匹の犬。その犬が庭にいて、表を人が通るたびに尻尾を振る。
 「長い毛の先に掘り起こした赤土のかけらがいくつもこびりついて、尻尾を振るにつれて細かな土が辺りに散らばり、尾の半径の下だけが掃けて、きれいな半円が出来ていた」
なんて個所に驚嘆する。
そんなわけで、二度寝することになり、次に起きたら9時をまわっていた。朝食をとり、しばらく思案したが、雨も上がったことだし、高円寺展へでかける。着いたのは11時過ぎか。リーダースダイジェストの絵本「世界名作童話劇場」が6冊程でていて、これが文を井上ひさし山元護久が担当。つまり、ひょっこりひょうたん島の脚本コンビ。ぼくは、井上ひさし、絵・安野光雅ガリバー』を一冊だけ買う。1973年の刊。フォークリポートという雑誌は前から一冊欲しかった、1970年冬号「うたうたうた 特集岡林と高石を裸にする!」は500円。「チューリップ ソングブック」は昭和48年刊、高校時代に持ってたやつだ、300円。渡辺茂男『しゅっぱつしんこう』あかね書房、としか背には書かれていない。鉄道ものだ、と思い表紙を見ると、絵が堀内誠一だ。これは背だけではわかりません。袖の書目案内を見ると、堀内誠一はほかに『ふらいぱんじいさん』『ふたごのでんしゃ』で絵を担当。谷川俊太郎和田誠コンビの『しのはきょろきょろ』、長新太司修佐野洋子なども名を連ねている。
川崎のぼる『太平原児』は「少年ブック」付録マンガ。ぼくは「少年ブック」を月極でとってもらっていたので懐かしい。表紙に落書きありで300円。石垣綾子『女は自由である』文藝春秋新社は佐野繁次郎カバーで300円。水上瀧太郎『大阪の宿』講談社文芸文庫200円。永六輔・中田安治『市街電車』が300円。古書展ではおなじみの「明治大正実話全集(4)」の『名人苦心実話』が裸本で300円。大阪毎日新聞学芸課編『科学は語る』天人社は函入りのいいデザイン。「伝書鳩はどうして古巣へ帰るか」「血族結婚の可否」「火星には生物が住んでいるか」「夏! 悪臭! 邦市の下水は何処へ行く」など楽しい目次。これが1000円。土間均一で「太陽にほえろ! 200回記念名場面集」「文藝春秋デラックス 日本の笑いマンガ1000年史」がともに150円
12時前に、ちょうど来たくらげ書林さんに声をかけられる。昨日、いっしょに飲んだ同居人さんも一緒だ。「こんな時間に遅いやないか」と教育的指導をする。くらげさん、「ハウハウ」とひとあくびして、「あっ、あくびなんてしてちゃいけませんね」と、いそいそと戦線に戻っていった。
都丸の店頭では、思潮社現代日本詩集の山本太郎『西部劇』、これは真鍋博デザインのいいシリーズなんだ、300円。高橋義孝『まぬけの効用』も佐野本ということで300円。ついでにハンター・デイビスビートルズ草思社も300円。
帰り、西荻下車。音羽館で広瀬くん、ちょうど来店していたとんぼ書林さんと、西荻でも一箱古本市をやろうと盛り上がる。