一箱古本市 
☆以下、日記メモにつけていた文章(転載を忘れてた)
名前の件だけど、岡崎祥久さんという作家にシンパシーを感じている事はもう書いた。あと、漫画家で岡崎武士さんという人がいる。きれいな絵を描く人ですね。「ブ」の大判の漫画コーナーをチェックするとき、いつもこの名を見てドキッとする。ぼくも漫画を描いていたから、高校時代の同級生で、「あ、岡崎、やっぱり漫画家になったか」と思ってるやつがいるのではないか。事実、一回、そういう誤解を受けたことがある。あと、岡武士さんという作家がいます。リトルモアから本が出てる。ニアミスという感じ。以上。
忘れていたこと、ひとつ。昨日、新潮社の近藤さん(新阿佐ヶ谷会のメンバー)から、朗読CD2点を送ってもらう。荷風の『断腸亭日常』と『佐藤春夫詩集』だ。前者については、高橋昌男が朗読する際の、朗読用原稿のコピーが同封されていて、これが興味深い。文章のどこで切るか、また読みがなが振ってあったり、スタジオの臨場感が伝わってくる。しばらくは、散歩の途中とか、寝る前のちょっとした時間に聴くことにしよう。
晩鮭亭さんがアン・サリーの新譜について書いてますね。ぼくは、音羽館へ行った時、ちょうどそれがかかっているので知った。奥園くんが教えてくれた。奥園くんも、お客さんから教えられたらしい。ひょっとして晩鮭亭さんかしら。どうもアン・サリーを知る具現の士はたくさんいるらしい。うれしいですねえ。ぼくは、歌声に恋したのは、高一のとき、カレン・カーペンターを聴いて以来だ。晩鮭亭さんは「胸の振り子」がいい、と書いているが、ぼくは「胸の振り子」については一家言あるのだ。サトウハチロー服部良一コンビによるこの名曲は、最初霧島昇が歌った。その後、ぼくの知るかぎり石原裕次郎も歌っている。そして、ぼくがこの曲を知ったのは、なんといっても雪村いづみの「スーパー・ジェネレーション」に録音されたバージョンだ。これが素晴らしかった。これは服部良一の歌曲を、ティンパンアレーが編曲演奏し、雪村が歌う企画アルバムで、ぼくは、これが出たことを知らず、FM放送で、和田誠が自分が好きな曲、ということで放送で流したのを聴いて、しびれた。「胸の振り子」だ。チャイナとアメリカポップスの融合、というアレンジだったが、詩のよさ、曲のよさを雪村いづみがみごと生かしきった歌唱で、これに驚いてあわててLPを探すがすでにプレミアが。のちにCD化されたのを買う。たぶん、その後、エポがこれをリメイクしたのは、本家の霧島ではなく、雪村のバージョンを聴いてのことだと思う。「胸の振り子」について、これだけ語れるのは、たぶん日本でぼくだけだと思う。それぐらい入れあげた歌なのだ。サトウハチローを見直したのもこの詩からだった。アン・サリーの「胸の振り子」、考えるだけでゾクゾクしますね。
☆以下、4月30日分の日記です。
昨夜一夜明け、某出版社のやりかたにふんまんやるかたなく、怒りのファクスを送る。どうしても我慢ならないのだ、ギャラを含めその扱いが。しかし、それで気分は晴れたかというと逆で、なんとも重い気分。向こうでも急に怒りのファクスが送られてきた、わけがわからないだろう。つまらぬこだわりを捨て、笑って原稿に手を入れ、どうぞお好きに使ってくださいとやれば、こっちも気分はいい。それを捨て、ひとり相撲で滅入っている。自傷行為だ。
それで今朝も、気分は最悪だったが、あの気分のいい「一箱古本市」について報告しないのは、奮闘されたスタッフの人達に失礼だと思った。それほど、今回のイベントは気分よく、初の試みとしては大成功だったと思う。それは、ナンダロウさんはじめ、今回かかわったスタッフの周到な準備とチームワークにあったと思う。邪悪なものが少しでも交じれば、地域連携のことも含め、トラブル発生は必至だったろうが、参加者としてのぼくの目から見る限り、完璧だったと思う。あらためてイベントスタッフのみなさんに、ありがとう。
ぼくは喫茶「乱歩」前に出店。最初70冊ほどを用意してキャリーつき旅行バッグに入れたが、うんともすんとも持ち上がらない。あわてて20冊ほど減らし、バックパックと手提げに詰め直す。御茶ノ水で、この日同じく出店する紀伊国屋書店の大井さんと出会い、二人で千駄木へ。大井さん、キャリーに段ボールやら荷物やらを乗せ、よたよたと移動。その隣りでばかでかい荷物を背中と片手に持つぼく、と「まるでホームレスの夫婦だね」と笑う。しかしその大井さんは月夜と眼鏡前にすてきなセンスの店を出し、内澤旬子賞を受賞することに。
「乱歩」組は乱歩の脇を入った店舗沿いに横並びに出店。見やすい配置となり、小沢信男さんやEDIなど大物出店もありで、古書ほうろう組ほどはいかないが、よく売れたエリアとなった。ぼくは、ぜんぶで48冊、2万9000円強を売り上げた。これは三鷹上々堂での岡崎堂の一カ月の売り上げに匹敵する。売れ残って持ち帰ったのは4、5册だった。小沢さんの箱「足裏堂」も1冊を残すだけでよく売れた。残ったのは「江戸の花魁」とかいう風俗もので、これは閉店まぎわ(というか本当は閉店後)に寄った河内紀さんが、「それじゃ、これはぼくがもらいます」と買っていかれた。だから小沢さんは完売!隣りに店を出したニトベさんとは、この日一日行動を共にした。大阪から、このイベントのためにわざわざ上京してきたのだ。ニトベさんはヨコジュン集英社文庫『日本SFこてん古典』3冊ほか、レアな文庫を中心に出品し、2万円強を売り上げた。「これで名古屋往復ぐらいの旅費が出ました」と語る。
各エリアには運営スタッフが一日中専従として張り付き、世話してくださったのだが、「乱歩」は神原さんという素敵な女の子で、彼女がいたおかげで「乱歩」に関しては、つつがなく一日が送れたのだ。最後、ちゃんとお礼も言わず、帰ってきてしまったが、神原さん、ほんとうにありがとう。出店者は一時間、店番をするのだが、ぼくは4時から5時を選ぶ。午前中は、古書ほうろう側を回り、ついでに、うわさの千駄ヶ谷「ブ」までチェックし、午後はニトベさんを案内し、古書会館「ぐろりや会」、タテキン、コミガレ、ブカキン、そして「ぶらじる」で珈琲とフルコースを堪能してもらう。3時から店番というニトベさんと戦地へ帰還し、今度はオヨヨ書林側を回る。オヨヨ書林前は店内も満杯。オヨヨさんがこのにぎわいに戸惑っているふうだったのが印象的だった。これが毎日続けば、ビルが建つよ。オヨヨ書林前では店番の女性に声をかけられ、『古本生活読本』にサインを求められる。あとで知ったが、この女性が、イベント終了後にぼくがプレゼンターとして表彰した「旅猫書房」の金子さんだった。金子さんは和雑貨のオンラインショップの経営者。
4時から5時までぼくが店番。お金を入れる小さなバッグを首から提げ「いらっしゃあい、今日だけですよ。明日はやってません。見ていってね。いまから一部値下げもしてます。自分のおみやげに買ってかえってね」と声出しをする。山本善行とコンビで、スーパー店頭で歯磨きを販売したバイトを身体が思いだす。
どんどん本が売れ、お金が入ってくるのが楽しい。あっというまの一時間で、次の店番に交替するときは、「ええっ、もうちょっとやりたかったな」という感じ。しかし、ぼくはこの日、ある計画があって、銭湯に行くつもりで用意してきたのだ。神原さんに聞いて、岡倉天心記念公園近くの銭湯へ行く。これがもう、めちゃくちゃ気持ちよかった。透明な湯舟と白濁した湯舟があり、当然、白濁したほうに最初入ったが、煮えたぎる釜地獄で、あちちと飛び出す。
この日は、いろんな人と知り合った。古本系ブログ日誌でおなじみ「退屈男」さんにも、「乱歩」の店番中に声をかけられたり、多くの人に出会ったイベントでもあった。ぼくがこの日、買った本、書きますか? めんどうだけど、じゃあ、書きます。
どこで買ったかは覚えていない。「一箱」で買ったのは、後藤明生『復習の時代』300円か500円。これは「四季の味」の藤田くんの店と覚えているのが、阿川弘之中央公論『お早く御乗車ねがいます』と『空旅・船旅・汽車の旅』が各300円。ちなみに藤田くんの店「筵司堂」は完売したそうだ。由良君美『みみずく偏書記』は印が入ってるが500円。野坂昭如編『プレイボーイ入門』は100円か300円。多川精一『焼跡のグラフィズム』が早くも200円。
ニトベさんと回った神保町では、コミガレで。『串田孫一哲学散歩4』、水上勉『男色』、ほか「たくさんのふしぎ」で、タイガー立石『顔の美術館』『フレ! フレ! 100まんべん』、佐々木マキ『宇宙のつくりかた』『南極のスコット大佐とシャクルトン』。これらは3冊500円。