桜まさに満開

朝、TBS。迎えにきたハイヤーの運転手がおしゃべり好きで、行き帰りとも、ずっと会話をする。それはいいのだが、ぼくが大阪出身といったことから、えんえん、東西比較論、大阪と東京の違い、大阪の特色、京都、神戸との違いなどの話題に終始する。そんなに喋ることないよ。それだけのことで。学者じゃないし。しかし、向こうとしては気を遣ってしゃべりかけてくれているのだろうし、話を切るわけにはいかない。それで疲れてしまった。今朝は朝食会もパスして、家に戻る。番組自体も押していたみたい。いつもより2分くらい短い。途中で、原稿を無視し、『馬場王道ミュージアム』を開いて、説明。絵は見えないのに。しかし、ごちゃごちゃ言うよりよかったかもしれない。
家に戻って、サンデー毎日の文庫コラム、とりあえず書き上げ、少し眠る。昼飯どきに起きてくるが、ぼうっとしている。そのかんじ、悪くないけどね。午後、外出。
朝、6時40分ごろ、国立駅前から大学通りハイヤーで通ったときには、まだ五分か六分咲きといったかんじだった桜並木が、昼すぎに、自転車で通ると満開。平日だが、人通りも多かった。桜に釣られて出てきたか。「谷川書店」に大きな荷物を背負った大学生らしい若者が入ってきて、谷川さんから歓待を受けていた。「これ、いま入ったんだけど、いるんなら、買い値でいいよ」と何か、古本を見せていた。ぼくはまだ、そんなこと言われたことないや。均一の埴谷雄高はぜんぶなくなっていた。20円均一(というのが、谷川にはあるのだ)からNHk取材班『シベリア横断特急』を。山口瞳『年金老人 奮戦日記』は80円。長部日出雄『ニッポン風船紀行』講談社が70円、と安い。寺山修司『鉛筆のドラキュラ』は新装版が800円だったが、同じ寺山のフォア・レディース『さよならの城』が250円で、おっと思って小脇に抱えてしまったのでパス。「ナルニア」取材の参考に、新書から上野瞭『現代の児童文学』中公新書150円。なぜか、この日、おじさん包んでくれません。いつも包んでくれるのに。「あのう、袋かなんかに入れてくれませんか」と頼み、ようやくパン屋のビニール袋に入れてもらう。何か気に触るようなこと、したかしらん。
国立「ブ」では、林丈二ブリュッセルの招き猫』同文書院が105円。林さんの旅観察日記を読むと、海外に行きたくなっちゃうんだよな。絵本売場で、佐々木マキ『ねむいねむいねずみのあまやどり』PHPを105円で。
古書流通センターの均一には開高健関連の本がけっこう出てたな。しかし、この日は買わず。サン・メリーでカレーパンを買い、喫茶コーナーでコーヒー。
ぼくはいまのところ、谷川、「ブ」、古書流通(みちくさ)と古本屋、新刊の増田書店、中古CDのディスクユニオンと、これぐらいの規模で、これぐらいのバラエティで町歩きをしてコーヒーを飲むコースに満足している。モデルコースの一つだな。
コーヒーのみながら長部日出雄『ニッポン風船紀行』(こんな本、初めて見たよ。カバーと本文イラストは山藤章二)の「大阪」の章を読んでいたら、長部が生まれて初めて大阪へ行ったときのことが書いてある。梅田の飲み屋で飲んでいると、隣の客が酔っぱらっているうえに勘定がたまっているらしく、店の女ともめていた。あれこれ言われ、男がすっと立って外へ行こうとした。逃げると思って女が「あんた、どこへ行くの?」と咎めるように言う。「ションベンや」と男。一瞬、間があき、そばにいたほかの客がぼそりとこう言った。「ションベンぐらい、させたりいな」。たちまち尖った空気がなごむ。長部はその言い方、間のとりかたに感嘆する。これぞ大阪弁の妙だ、というわけだ。たしかにね。この感じ、大阪出身のぼくはよおくわかる。
松本清張『蒼ざめた礼服』けっきょく読みつづけ、もうすぐ読了。古本屋で古雑誌を買ったことがきっかけで、平凡なサラリーマンが探偵まがいのことを始め、日本の政治の闇に踏み込んでいく。おもしろいが、主人公が刑事でもなく、復讐や恨みを持つわけでもないのに、どうして自費(けっこう使ってる)で、危険な思いをしながら(次々と関係者が殺される)、そこまで首をつっこんでいくのか。その動機がやはり弱いと思うんだよな。
音羽館の広瀬くんから聞いた話で、書き忘れたことひとつ。このところ、古書組合加入者が増えている。高円寺の若者が始めたセレクトショップっぽい古本屋Aも加入。そこで、S書店の社長I氏が、業者市に最近行ったところ、何人か、自分の店のお客さんがいつのまにか同業者になっていたことに驚いたそうだ。それまで、S書店で背取りをしていた人たちが、古本屋になってしまった。そのなかにはネット古書店の店主も含まれているはず。やはりこれだけ過当競争がすすむと、「ブ」や均一の背取りだけではまにあわなくなってきているのだ。ネット古書店のすすめ、なんて書いてそそのかしたぼくとしては、ちょいと責任を感じてしまうのだった。