*昨日のつづき
わが青春の「山口書店」で、山本は自分の本を200円で買った。この200円というのがじつに、なんというか、泣かせる値段なわけで。安く買ったことがうれしいような、200円という評価が悲しいような。しかし、山本は、わが青春の「山口書店」で自分の本を買ったことがけっこううれしそうだった。
続いて裏筋から公園を斜めにつきぬけ、また商店街へ戻り、「楠書店」へ。途中の公園では、ベンチで10名ほどの老人が将棋をしていた。対局する人と、それを観戦する人。ベンチで思い思いのスタイルで将棋をしている。韓国のパゴダ公園を思いだす。
「楠書店」では何も買えなかった。しかし、ここもいい本が揃っている。商店街にある町の古本屋としてはかなりレベル高し。値段もきっちりついている。二人で眼光するどく、棚にやもりのように張り付いて、あれこれ品定めしていると、勘定場にいたおばさんに「おたくら、業者の方ですか」と問われる。それは半ば、咎めを含めている感じ。「いやいや」と断って、昔からここによく通っていた者でと説明し、さっき買ったばかりの山本の『古本泣笑い日記』を見せる。ほお、という顔をして、おばさん、書名をメモする。「うちの主人がいたら、わかると思うんやけど」と言いながら、さっきの険しい顔が柔和に。ほっとする。
商店街を抜け、信号を渡り「尚文堂」へ。ここは「楠」と兄弟店。川端書店、千賀書店を含め、ぼくたちが通い始めた30年前と、まったく同じ店舗で、閉店することもなく商売を続けている。そんな町、日本国中、ほかにあるだろうか。なんか、それだけで、大阪の町「千林」を誇りたくなる。
「尚文堂」は郷土史、歴史書を始め、詩集もきっちり置いてある手堅い店。ここで『郷土枚方の歴史』(枚方市)を500円で買う。これは、中学のとき、たしか生徒全員に配られた本だ。持っていたこと、表紙を見て思いだす。このところ、「綴り方兄弟」「枚方第二小学校」と郷土がらみのマイブームがあり、これはそのためのいい資料だ。
書き忘れたが、枚二小探訪のとき、立寄った喫茶店「キャロット」からまだ先、少しいったところに、シャッターは閉まっていたが、「風流夢苑」という古本屋を発見(ネットのみ)。考えたら、前夜のスムース友の会に、漫画家うらたじゅんさんの知り合いということで参加してくれたのが、この風流夢苑さんだった。なんという奇遇。それに、うらたじゅん枚方在住、五条小学校卒)さんと話しているとき、「綴り方兄弟」の話をすると眼を輝かせ、もちろんその本は読み、綴り方兄弟を教えた先生(映画では香川京子)に教わったというのだ。
話はこれで終らない。数日後、家に帰ると、妻が留守中に「綴り方兄弟」の丹治さんから電話があり、「ぜひお会いしたい。東京へ飛んでいきたいが、身体の調子が悪くて」と言っておられたというのだ。「綴り方兄弟」の連鎖、続いております。
しかしこんなこと書いていたら、日誌にならない。楠を出て、われらが青春の喫茶店「ABC」(コーヒー250円!)で松川と待ち合わせ、地下鉄で南森町へ出て、天神橋筋商店街を流して「天牛」「矢野」と回る。ただし「矢野」は、明日の大阪古書会館での古書展を控えてか、店を閉めていた。商店街を北上、「駄楽屋書房」を覗いて、扇町公園をつっきり東通商店街へ。「末広」の4階へ上がり、ぼくは昭和9年主婦之友付録『夫婦和合読本』500円、INAXブックレット『豊穣の近代建築 下村純一の眼』200円を買う。近くのアジア料理店で軽くビールで乾杯、食事をして三人でカラオケへ。2時間歌う。山本と松川は中学時代からの親友で、ぼくよりさらにつきあいが長い。昔から、松川が山本を按摩する光景が見られたが、この日もカラオケボックスでさっそく、松川が山本を按摩。通路を通る客が、窓からこちらをちらと見て、ぎょっとして通り過ぎていく。そりゃそうだ。カラオケボックスで客が按摩してる光景は珍しい。
梅田で松川と別れ、山本と阪急特急で京都へ戻る。またもや「ヤマトヤ」でジャズ。山本の話ですごかったのが、毎日、三条「ブ」をチェックする、それも105円の本専門にチェックしているため、たまに値段がついていない本が混じっていても(ふつうなら「これ、値段がついていないので、105円にさせてもらいます」とか言う)、山本の場合、何もなかったかのように、当然のように店員が105円で打つ、というのだ。たまに105円以上の本を買うと「あのう、これ105円じゃないですけど、いいですか」と念を押すというからすごい。まさに105円の巨匠だ。

4月1日
朝、8時代の新幹線で帰京。家へ戻って、時差ぼけのまま(?)メールチェック、ゲラに手を入れるなどあれこれバタバタして、ポプラ社へ。『古本道場』の再校に手を入れる。ページ数を合わせるために、削除もする。4月22日配本は決定しているため、担当の矢内さんも最後の追い込み。そんななか、束見本にカバーをかけた『古本道場』を見せられ、矢内さんに「束見本の余ったの、ないか」と尋ねる。あります、ありますと案内され、処分しようとされていた束見本を譲ってもらうことに。これ、いいんだよ。いろんなことに使えて。
ポプラ社を出て、四谷三丁目から丸の内線で荻窪。中央線で折り返して高円寺へ。荻窪でちょいと時間があったので「ささま」詣でをする。105円均一で以下を拾う。ジェフリズ『野外にて』岩波文庫、中島平八郎『生きている上方落語京都新聞オールナイトニッポン『夜明けの紙風船』、開高健ロマネ・コンティ・一九三五年』文藝春秋谷川俊太郎『二十億光年の孤独』サンリオ、倉本聡『前略おふくろ様』ぺップ出版(ドラマスチール多数、山口瞳対談あり)、『国文学 落語のすべて』、松葉一清『やまぐち建築ノート』マツノ書店。このなかでは、『やまぐち建築ノート』がいちばんの買物。松葉一清は朝日の記者で建築評論家として有名。これは、山口支社時代の仕事で、先日、北九州から下関に渡ったとき、気になった建物について写真と解説があるので買ったのだが、ネット検索すると、この本、3000円から4000円の値がついていた。
高円寺ではコクテイルでドゥサムシングのHさんと打ち合わせ。このHさん、明石町の住人で、たいへんな美形。打ち合わせと称しながら、半分は、この美人と飲みたかったのだ。そうでなければ、とてもぼくなんかと同席してくれることはないだろう。少しあとで石丸澄ちゃんが来て、Hさんが帰ったあとは澄ちゃんとあれこれ話す。5月15日コクテイルできゅうきょ、「ふちがみとふなと」がライブをすることに決まった。これは行かなきゃ。この晩はコクテイル満員。対岸に古本屋さんらしい会話が。澄ちゃんに聞くと、桃李さんと都丸さん。あわてて挨拶。ちなみに都丸でいつも微笑みながら声をかけてくれる女性店員は、カミクラさんと名前がわかった。カミクラさんのファンは多く、彼女がいないとわかると帰る客がいるとか。そりゃあ、すげえ。

*追加
4月2日はれ
この日誌、立ち上げたが、本当に読めるかどうか心配だったが、どうやらだいじょうぶみたいで安心した。しかし、細かい技については、これからの課題。タイトルも、仮のつもりで入力したら、それがばっちり、本タイトルになっていた。あたりまえだが。初めとあって、ちょっとがんばりすぎたか。

今日は暖かかったなあ。自転車で11時ごろ国立駅前へ。増田書店でドゥサムシングの本を選ぶ作業をする。予備というのが必要で、2テーマあるので大変。「ブ」では集英社学習漫画『鉄道のしくみ』、ちくま文庫木村伊兵衛 昭和を写す』の2と3、中沢新一『僕の叔父さん 網野善彦集英社新書などを。「古書流通センター」店頭で加太こうじ『小説黄金バット筑摩書房400円。「谷川書店」で、清水茂『薔薇窓の下で』小沢書店90円、『つげ義春流れ雲旅』朝日ソノラマ500円など。店頭均一にこの日、埴谷雄高の函入り評論集シリーズが10冊ほど、一冊100円で出ていた。ほしい人はどうぞ。昼2時から、評判になったクドカンの「タイガー&ドラゴン」を見たが、ぼくはいまいち、だったなあ。みながいい、というので期待しすぎたか。下手にくわしい落語家の世界を描いているため、違和感を感じたか。